Story W

□オレンジキャノン
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「おい」
「………」
「おい」
「………」
「………クロウリー先生」
「何であるか、神田君」

《オレンジキャノン》

「補習するってテメェが…」
3年D組と書かれた紙が貼ってある引き戸の所へ立ったまま、神田はぶすっとそう言った。下校時間を過ぎた教室にいるのはクロウリーだけだ。
クロウリーは教卓で何か作業をしていたが、手早く紙をまとめると窓際の席に移動する。
そうして、そちらへ来るよう神田を手で呼びながら、クロウリー先生であろうと注意した。
嫌そうに入ってくると、神田はクロウリーから二つ程離れた椅子に座る。
学校指定の黒のバッグが、背もたれと体に挟まれて潰れた。
「神田」
ちらりと切り揃えられた前髪の間から視線が飛ぶ。
クロウリーはかたりと立ち上がって、向かいの机を動かすと向かい合わせの形を作る。そうしてから、もう一度そちらに来るように指示した。
ちっ、と形の良い唇から不満を漏らしながら、神田はその席の前まで来る。
しかし座ろうとはせず、腕までずり落ちたバッグを肩にかけ直す。
「座って」
苦笑したクロウリーがそういうと、渋々といった様子で神田が動く。
ドスリと投げ出された鞄からは、カコ、とクリアの眼鏡ケースが覗いた。
「ンだよ」
睨み上げる目を無視し、クロウリーはそっとプリントを差し出した。
「昨日のテストの結果である」
ギクッ、と神田の肩が揺れる。つけられた赤は丸には見えない。いや、辛うじて丸を成しているものもあるが、それは両手で数えられる程で――――――
「27点、であるな」
気まずそうな視線が、クロウリーを伺っていた。
「そんなに難しかったであるかな?」
ニッコリと笑う顔は底知れないものを見せていて、神田はう、と口籠る。
難しかった、ことは無い。
普段と変わらない位の範囲ではあったが、要点も問題もそこはかとなく教えていた。
何しろもう三年だ、受験勉強を妨げる程のテストには出来ない。
聞いて来た生徒には、解き方だって教えていたのに――――――
「何をやってたんであるか!」
「知るか」
「ラビに教えて貰ったのではないのであるか?!」
「するわけねェだろ」
「留年するであるよ!」
「しねぇよ」
「する!」
「大丈夫だ」
「あぁもう……」
脂汗をかきながら強がる神田に、クロウリーは頭を抱えた。
進路は決定しているから良いものの、このままでは卒業が危うい。
バッテンだらけの解答用紙を片付けたクロウリーは、手にしたファイルから一枚の紙を取り出した。
「これを明日までに覚えて来るである」
「あ?」
「追試だ…明日の放課後」
眉を寄せそれを受け取った神田は小さく溜息をつき、鞄に突っ込む。そしてクロウリーに向き直り、小さく悪ィ、と呟いた。
「…今回だけである」
「分かってる」
「私は、ヒモを養っていく気はないであるよ」
「ああ」
「…そろそろ帰るである」
ファイルを手に立ち上がったクロウリーは、窓から差し込む夕日でひどく赤らんでいるように見える。
神田は不意にクロウリーのシャツを掴み引いた。
ガタン、バランスを崩し机につかまれば、口唇に柔らかいものが触れた。
くちびる、が。
「…!」
「明日は数学の追試があるから、明後日来る」
そう言うなり神田は教室を去った。
机に倒れ込んだまま、クロウリーは呆然としている。
そしてはっとすると、
「いくつ赤点だったんであるかー――――――――!!?」
と叫んだのだった。

fin


後書き

やなこ様3600Hitキリリク、教師クロ生徒神田でギャグ甘でしたー!

チェケラー!
『ギャグ甘でしたー!』
よう言うわー!ギャグでも甘でもねぇよー!
おまえの自信に苦笑い、ヒァウィーゴー!
(いきなり中山巧太か。マイナーな)

う、温くてすみませ……!
ポイントはさりげない眼鏡神田と同棲発言デス!!!!←←←
相変わらず神田は書きやすい……!

やなこ様リクありがとうございました!!


write2007/6/29
up2007/7/4

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