Story W

□ミルクレープ
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教団のみんなはどう思っているやら。
僕が勉強を始めたのは、歳の離れた可愛いかわいい妹の為だった。
否応なく連れ去られた妹を取り返す、その一心で今の地位まで上り詰めて来た。もし妹のことが無ければ、科学者になるなんて事は思いもしなかっただろう。
――案外、僕は理由が無ければ何もしない、物ぐさなのかもしれないな。

  《ミルクレープ》

その日も僕は仕事を抜け出して、かわいい妹のリナリーの所へと赴いた。
大事な任務以外は職権を乱用して助手として働いてもらってはいるけれど、彼女だって職務上戦力として見なくてはならない。
故に、忙しい最近は、僕が通い婚ならぬ通い家族をしているのだ。

「リィーナリィぃーっvV」

「あら、兄さん」
可愛らしいツインテールに麗しい笑顔!
今日も我が愛しい妹は完璧だ。

「仕事は終わった?」

ちょっとしっかりし過ぎるきらいはあるけれど。

やだなぁ終わってるに決まってるじゃないか、と流れるような動きでお茶を煎れ、リナリーと自分用の椅子をセットする。
そうして本当に?と苦笑し通しの妹を座らせて、久しぶりの団欒が始まった。
最初は仕事を気にしていたリナリーだったけれど、そのうちに何時もの愛らしい笑顔で見聞きしたことを話してくれる。
やれ任務先で神田君が子供を泣かせたやら、二日前にミス・ミランダに服を見立ててあげたやら、オフの合間に起きたあれこれを詳細に。
その姿は何処にでも居る様な十六歳の少女で、人格形成に重要な決定力を持つ幼児期をあの苛酷な内で過ごしたとは、到底思えなかった。
「兄さん?聞いてる?」
思わずしんみりとしていたら、顔を覗き込まれた。
「ん!?当たり前じゃないかリナリーっ」
慌てて笑顔を作れば、又寝てないんでしょ?と心配そうにする、心優しき我が妹。
大丈夫元気一杯だよ、とアピールするように上着を脱いでポーズをとると、きゃあと叫んで蹴りを浴び、軽く吹っ飛んだ。

手当を受けて、又暫くたわいもない話が続いた。
リナリーによると、この一週間で出た各市町村への補修費は殆どラビ君のせいらしい。ああも再三再四注意して、ブックマンからも体で教えられているのに、どうして改善しないんだろうね。というと、ラビだもの。と庇う。
何か有ったのかも知れない、と後で呼出しを決めた所で、リナリーがそうだ、と大きな目を舜かせながら口を開いた。
「兄さん、何時クロウリーと仲良くなったの?」
「え?」
意外な質問に聞き返せば、あれ、違うの?と更に返される。
「そこまで親密になった覚えはないけど…何かあったかい?」
改めて疑問符を付ければ、リナリーは困ったようになんでもないわ、と首を振った。
気になって口を開いた時―――

「しィィイつちょぉオォォオォオッッッ!!!!!!」

お迎えの声がビリビリと響いた。
「兄さん…?やっぱりまだ仕事…」
「じゃ、じゃあねリナリー!」
慌てて部屋を飛び出す時に、苦笑顔も可愛いリナリーが、またねと手を振るのが見えた。

右に逃げた兄が、網で捕獲されて左に消えていくのを見つつ、リナリーはお茶をコクリと飲み下した。
頭の中には心配そうに自分に話しかけて来たクロウリーが回っている。
『最近コムイ室長は寝てないのであろう?』
『肩凝りが直らないと零していたであるが…』
『何か出来ることは無いだろうか』
あの時彼女は心底驚いたことを覚えている。
彼女の兄は、愚痴など零さない人だから。
ちゃらんぽらんに見えて、自分や周りに気を使いながら生きている。
勿論仕事柄そうでなければいけない面も有るのだろう。しかし、自分にも滅多に弱音を吐かない彼だ。愚痴とはいえ、余程心を許さなければ話さない筈なのに。
「……人柄かしら」
果てしなく穏健派な笑顔に妥協点を見付けると、少女は兄の入れた美味しい中国茶を見下ろすのだった。

fin

後書き

あれクロたんは?

ミニ企画第四弾、黒眼様の「幼稚園」でした〜!
え?リクに沿えてねェよって?やだなあ「幼稚園児並の恋」ですよ!!!

……あの、すいませんほんと、…あの、精進したいと思います汗土下座

ところでほんとにクロたん……(汗)


write2007/7/8
up2007/7/8

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