Story W

□月のうさぎ
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月の重力は六分の一らしい。


《月のうさぎ》


昔同僚であった若者から聞かされた昔語。
竹から生まれた美しい少女は月へ帰り、残ったものは涙に暮れた。
其れは物悲しく美しく、そして其の少女の特異性を浮き彫りにしていた。
ありふれた日常。
そんな確信の無い普通を無条件に信じた報い。
そう後ろ指を差された気がした。

いやはや、今日の月は酷く赤い。
先程飲み下した葡萄酒より、浮み充血した此の眼より。
例えれば其れは見知ったあの赤さと答えるしか無く、私は自分の文学性の無さに自省する。
彼の人ならば何と言い表そうか。
私より遥かに ゝ に本の虫で在った彼は。
そう言えばあの若者からはもう一つものを教わった。
月のうさぎ、餅を搗くうさぎが月には居るのだと。
日本人の思考は悉く理解不能に近い。
月見酒も底を尽き、私は冷たく湿気った地べたから起立した。
今日の様な月の赤い夜は、あの子すらも迎えに来てはくれ無い。あの子も思い出す人が有る。
私とは質が違う子だ、決して月見酒等催す事は無い。
屹度部屋でトランプ等広げ時に矧ったり蹴散らしたりして居るのだろう。

夜風は怠けて吹き止み、俄かに蒸した。
足早に部屋を目指せば月が追う。
あの影の何処がうさぎなのか、其れとも私が其のうさぎから嫌われて居るだけなのか。
流れ出た息。
今此の場にあの若者が居るならば、新しい事実を唱えよう。
月に帰るのは、少女だけでは無いと。
うさぎも又空へと帰って仕舞った。地上には残されたものだけが其の残影を見付ける度、解せ無い思いのみを募らせて行く。
長い長い道程を一飛びして行った。
全てを置いて行く事に顔色も変えず、に。

番戸を開け中に入れば、あの子も赤い眼をして五十二枚の厚紙の束を整えて居た。
白く悪目立ちする頭部に赤い眼は良く映え、丸で此の子こそがうさぎの様だ。
とすれば、此の子も又月を目指すのかも知れ無い。
そう成ると、又一人に成るな。そう思いつつ眼の前の子に寄り添った。

月の重力は六分の一らしい。
元気の有り余りの様な彼の人の事だ、何時の日か、そう遅くない未来に跳ね上がり過ぎたと笑い乍ら、又此のうさぎと私の元へ帰って来てくれると信じて居る。
彼は私達に手紙も不老不死の妙薬も残しはし無かったのだ。
だから。

否、昔語と事実と現実を内混ぜにするなと誰かは言うだろう。
だが良いのだ。
信じて居ないなら、其れは全て虚構でしか無いのだから。

fin


後書き

あっはっはっは!
なんとなーく暗切な目指せば最終的に捻て終わった!
しかもこれ… C P な に 。
(゜∀゜)ムホァ
いや、その前にこれは誰なんだ。(爆)
でも一応、代名詞は各人一定させてあったりします。ので、そこらへんで読み分けてくれると…嬉しい…な…(死)


write2007/7/13
up2007/7/14

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