Story W
□ ハヤガネ。
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「はぁ はぁ はぁ はぁ」
耳の 奥で 早鐘
ズクン 鈍い 関節 痛
揺れる床 回る天井
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
汗 と 浅い 息と
滲む涙 と 渇い た 咽喉
「はぁ は、 あ はぁ はぁ はぁ」
この広い屋敷に、私一人。
割れるような頭痛と、放り投げたままの着替え。
このまま死んでも、きっと、私に気付く者は誰も居ないのだろう。
独りで死に、腐り、そのうちに骨となる。
一生に打つ人の脈拍数は大体決まっているという、ならば、私の寿命は大分縮まったのではないか。
何て妄想。
嗚呼、かさつく舌の根を、誰か潤してはくれないか。
短いまどろみの合間に、怖い夢を見る。
頭痛に泣く。
誰も、頭を撫でてくれない。
乾き過ぎた咽喉が、ヒゥと鳴った。
小さい頃、小さい頃、同じように、熱に魘された涙を流した時。
誰も居ない、そう思った私の口には、一粒の氷砂糖が落ちて。
乾いた口は、甘く甘く。
中で溶け崩れればまた、一粒。
手を貸すでもなく、只たまに氷砂糖を落とし。
熱い熱い口腔は、砂糖が染みて。
染みて。
瞼の裏を見飽きて、目を開けば、目の端に、砂糖を付けた指が見え。
まどろんで、泣けば、口の中に冷たい甘さ、で。
嗚呼、死んでいないと目を開けば、ブロンズ像が、私を嘲笑っていた。
乾いた口に、額を伝う汗を入れる。
甘い筈も無く、痺れた味覚では、味等無く。
こめかみを流れた涙が、べたつく髪を苛み。
静か過ぎて、耳の奥が痛い。
鼓膜を揺らす心拍音が、怖い。
死んだら、そう考えることは、怖く。
死ねば、そう浮かされて、涙し。
気が付けば、啜り泣いていた。
「…じ、さ……」
止まない 頭痛 と
詰まる 息
声 掻き 消し
「…じぃ、…さまっ……!」
立て ない 程 ののぼせ
響かぬ 音
早鐘 と 泣き声 願 い言
「…ぉ祖父さまッ……!」
声は返らなかった。
静か過ぎて 鼓膜が 痛いの に。
fin
後書き
現在進行形で熱があるであります。
独りで泣くクロちゃんは可愛いと思います。
write2007/7/29
up2007/7/31