Story W

□慰労会!
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「そう―――彼女の血は、其れは其れは甘く馨しく、今宵の宴で飲んだソォダよりも私の咽喉を酷く驚かせた」
長身の男性は、長い外套を翻し乍甘美な笑みを浮かべた。ばさり広がつた天鵞絨を神経質な手付きで調え、糸の様に細く成った月を仰ぐ。
「明日は丁度、朔の月。貴方に見付から無い様に、私は何処にか隠れて居よう」
潔白の手袋が覆う細指が、向かいに立つ者を挑発するかの如くゆうるりと胸に置かれる。男性は続け慇懃な面持ちで優雅に腰折ると、「御機嫌良う」と微笑み、一刹那の内に暗黒へと融け去つた。




――――って感じにしてみたさ!」
ラビは手にしていた紙の束をどう!?とでも言うように振り、その場に集まったクロウリー、アレン、ミランダにリナリー、コムイに満面の笑みを向けた。
しかし、皆の反応は思わしくは無く、しきりに苦笑ばかり見て取れる。
「……ダメ、さ?」
しょぼぉんとあからさまに態と肩を落としたラビに、クロウリーが慌ててそんなことは無いであるよ!と声を掛ける。しかし、ラビは良いんさ良いんさオレなんて…といじける演技を続けた。
更に慌てたクロウリーがラビに手を延べようとすると、横からさっと腕が伸びてそれを止める。
「悪いも何も、出てくるのは死体と男と相手だけじゃないですか!」
手を止めた張本人はラビに向かって冷たく言うと、納得いかない風に眉を動かす。向かいに座っていたリナリーも、そうねと苦笑してやんわりと訂正を求め。
「私、死体の役は嫌なんだけれど?」
とにっこりと笑った。
「わっ…分かってるさ!
リナリーには別の役がちゃんとあるからッ!」
慌てたラビが頭をあげると、ミランダがじゃあ私は死体なんですね…良いんです、私、どうせ台詞なんて覚えられませんから…と在らぬ所を見つめウフフと笑う。
するとリナリーとアレンはラビ駄目じゃない!、酷いですよ!とラビに向かって眉を吊り上げた。
「うえぇぇえぇぇオレ!?オレなん!?」
叫ぶラビ、糾弾し続けるリナリーとアレン、慌てるクロウリー。ミランダは未だウフフと笑っている。
そんなエクソシスト達を見て、コーヒーカップを持ち上げたコムイは騒がしいねぇと溜め息を付き…。
「「「「…………」」」」
笑い続けるミランダを除く全員からじっとりとした目で見詰められる羽目になった。

『慰労会やろうよ』
目の下に隈を作ったコムイが一週間前にのたまったその一言から、教団内に居た全ての人への受難が始まった。
各班ごとに出し物が割り当てられ、通常業務の合間に準備が待ち受けている。
中でも目玉は、エクソシスト達による“大活劇”で…。
と、言いつつも某室長のお達しで話は完全オリジナル、その時点で既に行き詰まっているのだった。
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