Story W

□*転 寝 日 和*
1ページ/2ページ


曖昧な天気の午後、狭い狭い安宿のベッドにぎゅうぎゅう詰めで寝そべって、クロウリーとラビは微睡んでいた。
二階であることをこれ幸いと開けっ放したままの窓。
そこから流れてくる喧騒や、美味しそうなご飯の匂い。
「……まだ眠ぃ…さ…」
「ん…」
「んぅ…」
寒くもないのに、互いの息がかかる程近くまで寄り添って。
心地良い風がふわりと褪色したカーテンを揺らすけれど、二人の間を通る隙間は無い。
暖かい陽光は、窓辺に四角い跡を付けていた。
喧騒を掻き分けて、一際高いきゃあきゃあとはしゃぐ子供達の声。
一番高くに鎮座していた太陽は、段々とラビとクロウリーに感化されるように微睡み、落ちていく。
スカイブルー。
海からは近くない。
きっぱりとした空の色に、屋根の色が、煉瓦の色が遠くまで映えて見える。
細い木枠が、二人分の体重を支えぎしりと鳴る。
洗いさらしのシーツに包まって、なすがままに時間を過ごす。
昏さなど無い明るく澄んだ光に、空気はクリアになり、日影すら清々しい。
「クロちゃん…」
「……うむ?」
「………」
「…………ん…」
呼びかけに薄く目を開けて、クロウリーはラビを見る。
ラビはクロウリーの胸の辺りに丸まったままその視線を受け、又温かい肌に擦り寄った。
クロウリーも、その柔らかい赤毛に頭を埋めるようにして、又目を閉じる。
ゆっくりとした風が吹き込んで来て、二人の髪をさわさわと揺らした。
オフホワイトの壁は、雲よりも優しく、空気を抱く。
水色に変わった空が、要らないものを全て吸い込み浄化する。窓の外の音は一時の収まりを見せ、先程よりも深い眠りを促す。
やや涼しくなった風に、健やかな二重奏が漏れた。
ベランダの鉢植えが、二人は感じないほどの微かな風に揺れる。
完全に力の抜けた腕がラビの頬にかかり、モゾモゾとラビが上に移動する。
頭がクロウリーの顎を押しのけて、二人の頬が触れるまで上っていく。
いつの間にやら口唇が触れたが、息がしづらかったのか離れた。
又、すうすうと寝息だけが交わされる。
外から漂ってくる甘い匂いが和らぐと、また子供達の声が弾み始めた。
窓際の四角い跡が縦長く変化し、向かいの壁にかかる。
チイ、とベランダに黄色い小鳥がとまる。
時たま鳴き声を発しながら歩き回り、鉢植えに成った実を突いてみたり。
二人の寝息は、変化無い。
とつ、とつ、と小鳥が部屋に入ろうとした時、チチ、と屋根の上から鳴き声が落ちる。
その声に跳ねるのを止め、上を振り仰いだ黄色い鳥は、チィ、と返事をするように一鳴きすると、窓枠のすぐ側から飛び立った。
屋根の上からばさばさと羽撃きの音が聞こえ、コバルトブルーが混ざった羽の鳥が、黄色い小鳥の後を追う。
明るい子供達の声や喧騒に混じって、チイチイという鳴き声が遠ざかって行った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ