StoryX

□require
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繋いだ手を離したらそれが始まりの合図になった。
薙ぎ倒されていく辺りの木々に砂埃が立つ。
振り下ろした槌は彼を捉えられるはずも無い。
力では敵わないからこその奇襲だなんて、あまりにも明白な策略。
それでもそれに頷いたのはオレが彼を知らなかったからでしかないのだけれど。
「火判!」
避けそびれた一撃に牽制打。
難無く避けられて苦笑い。
もう一度、そんな風に騙して走って来た彼の腹に伸で一発。
跳ねた体にすかさずコンボ判。
彼もやられるだけじゃない、どうにかしてオレを倒そうと近付こうとする。
けれど、所詮彼は接近戦向きでオレが槌の扱いを変えればオレに近付くことさえ出来ない。
いくら速くてもいくら強くても主権を握るのはオレだった。
ぅぐ、と彼の口から変な音が漏れて、槌に細工した刃が鮮血に濡れた。
やったのは右の脇腹。必死で体勢を立て直し地面を蹴る彼。散る血液がオレに降り懸かりかけて、慌てて後ろに下がれば先回りした彼にぶつかった。


  ……あー、あ。


彼の手に、ばきっ、とどこかの骨が折れた。
デモもう痛みも無い。死ぬんだ、このまま。
ゆっくり喉を遡ってくるものに咳込んだ。辺りに今度はオレの血が散る。
背中から突き立てられた手がオレから退いた。膝から落ちたのに感覚はゼロだった。
「……ラビ」
何、と地に臥したまま考える。
「どうして、教えた」
だって、クロちゃんがすきだから。
「教えなければ、殺せただろう」
うん、まぁね。
でも、オレ、出来なかったさ。
殺すことも、だけど。
クロちゃんには、嘘、つけなかったさ。
オレがノアだってこと、黙ってたけど。
「こんな事ならば、…愛さなければ良かった」
声が小さく聞こえ始めた。
ごめん。な。
泣かないで欲しいだなんて、酷く利己的な願いだと思った。
殺したくないと考える自分を知ったときから、いつかは彼を泣かせることは決まっていた筈なのに、酷く、今更に。
「ラビ……」
ああ、もう、もう…すぐ。
…クロちゃん。
もし、少しでも許してくれるなら、もう一度で良いさ。





  (最期に・優しい・キスをして)

fin


後書き

クロちゃんのキスが好きだった
優しくて、あったかくて、気持ち良くて
敵だなんて忘れられれば良かったのに



出来ないなら傷は浅い方が良いさ


write2007/9/14
up2007/9/14

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