StoryX

□信じるコト。
1ページ/2ページ


ざわ、ざわ。
書類を出しに室長室に赴けば、中から落ち着かない空気が漂っていた。
リーバーはかり、と小さく頭を掻き、数回壁を叩いて中に踏み込む。
厄介事には慣れた。寧ろ、それで仕事が滞ることこそ避けなくてはならない。
部屋の中にいるのは室長と、補佐のリナリーにエクソシストのアレン。いつもならば何と言うこともない組み合わせだが、どうやらやはり何かあったらしく、ぼそぼそと話し合っていた。
「どうかしましたか?」
ノックにも足音にも気付かない三人に声をかけると、丁度良いところに来たね、とコムイが困ったような顔のまま言った。
「今呼んでもらおうと思ってたんだ、こっちに来て」
リーバーははい、と書類を持ったまま近付き、アレンとリナリーの間に入る。そうすると、アレンがぼそっとクロウリーが、と心配そうに呟いた。
リーバーがぴくっと眉を上げる。
「クロウリーが部屋から出てこないんです」
自身も落ち込んだ声で告げるアレンに、リーバーは何があったんスか、とコムイを見た。
「昨日の任務で死亡者が出たんだよ」
「…死亡者、が」
「ああ」
コムイは小さく頷き、アレンに目で合図する。アレンはそれに気付くと、任務中に、と話始めるのだった。


リーバーが聞いた話を要約すれば、死亡者というのは一般人、それもアクマ製造を行っていたブローカーだったらしい。
現場に踏み込んだアレンとクロウリーの目の前で、今しがた皮を被ったアクマに一刺し。
何故ブローカーが殺されたのかは判らないが…、悪かったのは、クロウリーが今までの任務が死亡者の居ないものだった事―――
リーバーは頭を掻きながら、どうしたものかと廊下を進んでいた。
『リーバー君に頼みがあるんだよ』
そう言って任されたクロウリーだったが、正直どう慰めて良いやら分からない。
「結局厄介な事になる訳か…」
そういって、クロウリーの部屋の前に立った。
コンコン。
そっとノックしても、反応はない。
一つ溜息を着いてリーバーはそのノブを回す。ドアは、開いていた。
「クロウリーさん…」
中は暗く、クロウリーがどこにいるのかは分からない。リーバーが廊下からの明かりを頼りに部屋の灯を点せば、部屋の隅に彼を見付けた。
灯も良く届かない、部屋の隅。
団服から着替えもせずに。
「…クロウリーさん」
足を抱え込むようにして、頭を下げている。
顔は見えない。
泣いてはいない。
ただ、息をしているのか分からないほど、静かで。
「………」
リーバーはそっとクロウリーに近付き、しゃがみ込んだ。
「…ひくっ」
肩が揺れ始める。
ひく、…ひくっ
小さな啜り泣きが、リーバーの耳に痛かった。
「アレイスター」
影が落ちている顔をくい、と持ち上げ、親指で頬を拭う。
クロウリーの目が、漸くリーバーを見た。
濡れた目に、熱くなった目の下。
かさつく頬。
腫れぼったい瞼の下から、涙がまた伝う。
リーバーは情けないほどに歪んだ顔に、眉をしかめて苦笑する。
「アレイスター…ずっと、泣いて?」
瞑られた目からは、はらはらと。
答えは無かったが、リーバーがそれを知るには十分だった。
ゆっくり抱きしめる。
二人の間にある足のせいで、しっかりとはいかない。
それでも、リーバーは強く、出来るだけ強く抱きしめた。


   
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ