StoryX

□want,WANT,WANT!
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「何してるんスか」
クロウリーの後ろから声がした。

「…リ」
「何泣いてんスか」
振り向いた顔が、あんまりにぐちゃぐちゃでびっくりした。とりあえず白衣の袖で鼻水と涙を拭ってあげて、頭を撫でて。
こうやって子供扱いしてしまうのは少し心苦しい、けれどクロウリーさんは全く気にしないので、俺も極力気にしないようにしている。
「すまない…」
「いえ」
大きい体して泣いているのは凄く異様ではあるけれど、そんな所も可愛いな、なんて思いつつ、どうしたんですか、と聞いた。
でもクロウリーさんはそれから更に暫く泣いていた。しばし待って、漸く泣き止んだところで改めてもう一度聞いてみる。
「で、どうしたんですか」
彼は少し口ごもった後俺の表情を窺う。何となく言い出しにくそうだったので、無理に言わなくても良いですからと付け足した。すると彼が慌てて首を横に振り、一つ鼻を啜り上げてから口を開いた。
「夢を、見てしまって」
昔の。
寂しそうな口調に、今度は俺が口ごもってしまった。
報告書や会話の中で知っているこの人の過去は、俺にとっては只の関連知識でしかない。
そこに存在した風景も、想いも、想像は出来ても実際に知ることは出来ない。
だから、俺は何と声をかけるべきか迷っていた。
「あ…き、気にしないでほしいである」
「あー……」
気を使うように笑うクロウリーさん。俺は少し困って、頭を掻く。
どうすればいい?必死に考えて。
「…wantの語源、知ってますか?」
気が付くと、そんなことを口走っていた。
「…いや、知らないであるが…」
「あの…ですね、『欠けている』なんス」
彼が小さくほう、と言う。けれども当然ながら不審顔だ。俺は何が言いたいのか自分でも分からずに、迷いながら言葉を続けた。
「今は『欲しい』って意味があるじゃないですか、それは元々の意味の『欠けている』から転じてて…。
欠けてるってのはその、不自然な状態な訳です。だから…欠損…欠落を補うものが『必要だ』つまり『欲しい』って、なったんです」
しどろもどろになりながら説明すれば、クロウリーさんは頷いた。そこまで来て、漸くどうにか言いたいことが見えてくる。
「ですから、その。
…もっと、欲しがって良いんですよ」
俺は言った。
え、と彼が疑問符を飛ばす。
柄にもない台詞だと、恥ずかしい。それでも俺は言葉を続ける。
「…クロウリーさんがなくしたモンは、とても大きなものだったんですから、もっと欲しがって良いんです。心のどこかが欠けてしまっているのを、我慢する必要はないんスよ。
泣いたり…、する位寂しいんだったら、どっか欠けてるんだったら…良いんですよ、もっと。俺達に頼って。オカシクないです。
…もっと、欲しがって下さい」
優し過ぎるところがあるクロウリーさんだからこそ、きっとどこかで我慢していたのだと。俺は先刻思わされた。
だが、人と人とは与え合って生きていくものだ。だから彼の我慢は、遠慮は、俺をやるせなくさせ酷く掻き乱す。この人のソレが、無知ではなく生来の慎み深さから来ているのは知っているが、それでも俺は、彼に伝えたかった。
これは只、俺の自己満足。
――俺が、彼に、今。
―――伝えたかっただけ。
言ってしまった後で何だか悪い気がして、俺は小さく苦笑した。
「何か、スイマセン生意気言って」
謝ると、クロウリーさんはまた首を振ってくれて。
「ありがとう」
嬉しいである、という顔は笑っていたので、俺は漸く胸を撫で下ろした。
「しかし、リーバーは優しいであるな」
クロウリーさんが目に溜まったままだった涙を指で拭いながら口を開いた。そっスか?と聞き返せばうむ、と頷かれる。
んー、と少し考えて、俺は。
「俺にはクロウリーさんの笑顔が『欠けている』から…ですかね」
と笑った。

fin


後書き

ぎゃー(瀕死)
リーバーさんが恥ずかしくてやっとられんですな…(泣)エセめ!エセめ!
クロリバクロは甘い、甘すぎる、そして進展が無いよううぅ。
wantが欠けている→欲しいは本当だと…ネタ元は辞書ですから★★しかしエセだ…。


write2007/9/28
up2007/9/30

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