StoryX

□P i e R C i N G
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「じゃあ、開けるさ」
「う、うむ」

きらり、ラビの手で針が光った。


  《P i e R C i N G》


「っ……うぁッ」
ざく、と鋭利なその先がクロウリーの耳たぶに突き刺さった。我慢して、とラビが優しく諭しながら更に深く針を刺し込んでいく。ぷつりと裏に出た切っ先には薄く赤が纏わり付いている。
「抜くさ」
針の消えた穴に、矢継ぎ早に新しいものが押し込まれる。垂れる暇の無かった血は新しく光るピアスの下でじわりと滲み、その上で、黒い石がキラリと光った。
「っ…出来たであるか?」
「ん、このまま触っちゃダメさ」
涙声のクロウリーが、側に用意していた鏡で自分を映す。
左耳に光るブラックオニキスが目に違和感を与える。
不気味な位しっかりと、自分に埋め込まれた異物。
クロウリーは、しげしげとそれを眺めた。
ラビはそんなクロウリーの向かいで針に付いた血を拭っていた。
オキシドールの浸みた布が、鈍った銀色を鋭く戻していく。
「痛かった?」
ラビがそう口を開くと、クロウリーがふと顔を上げた。
「多少」
「ジジイの針だから、まだマシな方さ…」
良く手入れされたそれは、たいした抵抗も無く皮膚を突き破った。そうなれば耳に神経やツボが多いと言えど、痛みは少なくなる。ラビはもう一度良く針を拭い、明かりに照らしてその先を確かめる。
よし、もう綺麗に拭えている。
「右耳もいける?」
クロウリーが小さく頷いた。
あらかじめ付けておいた印の辺りを新しい清浄綿で清め針を宛がう。
ヅプ、と針が刺さる。
「っ…」
「もーちょいだから」
「う、む」
「はい」
痺れるように痛む耳から手が離れ、ラビは正面から出来を確かめて、ん、と短く満足気な息を吐いた。
「出来たさ」
「有難う」
ひりひり、ずきずき。
耐え難いほどでも、無視できるほどでも無い痛みを覚えながらクロウリーは笑った。
「何時、触れるようになるであるか」
ラビの耳についたリングピアスに手袋の手が触れる。ラビは横目に伸びた腕を見つつ、そうさね、と呟く。
「一月は、そのままにしとかなきゃ」
「ひとつき」
長いであるな、とクロウリーは口走った。ラビはくすりと笑う。
「外そっ、か」
「良い…」
「でも、戦闘したら塞がるさ」
クロウリーの耳に光る黒。
ラビは左右のそれにちらちらと目をやりつつ、今だ耳飾りを弄っていたクロウリーの手を取った。
「又、開けてくれれば良い…」
駄々っ子の様でもなく、声が落ちた。
「……まぁ、そう、さね」
ラビは苦笑してクロウリーを抱きしめる。良く我慢しました。頭を撫でられクロウリーがコテンとラビの肩に頭をもたれさせる。
じんじんと熱い耳が肩に触れ痛んだ。
誰にも知られず、肩に血が乗る。
「その都度ラビに開けてもらうである」
「何回になるんさソレ」
「ラビが全部開けるであるよ」
「……」
「ラビしか触れてはならないんである」
クロちゃん。
ラビが痛かったん?と問う。
オカシイさね、大の大人が。
瞬きをしてクロウリーがラビに手を回す。
何回、か、など。戦いが終わるまでの話である。
ってやっぱり何時なんさそれも。
囁くような会話が続き、そのうち静かになる。
ラビはクロウリーを抱いたまま、放置していた針を片付け始めた。
消毒してケースに仕舞っていく。
肩には開けたてのピアスが触れている為、出来るだけ静かに。
当のクロウリーは先程の体勢のまま作業に揺れるラビのピアスを見ていた。
耳はずきずきと痛む。
痛みが自然に止む前に、戦闘で傷すら無くなるのは目に見えている。
クロウリーは、質問の答えを見つけようと何回この痛みに遭うのだろうかボンヤリ考えた。
 
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