plan
□Falling Star
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黒い受話器越しに聞こえたのは、数週間会っていない彼の声だった。幼い頃から嫌というほど聞き慣れているはずの声なのに、今、彼が電話にでたその瞬間に、鼓動が速まるのを感じる。
いつもならすんなり出て来る日常的な会話も、当たり前の挨拶さえも、今は喉に仕切りがあって、それを伝えるのを拒んでいた。真っ暗な廊下も、その両隣に位置する各々の部屋への入り口も、それを助長するようにそびえ立つ。
「…おい、」
余りにも長く沈黙が続いたせいだろうか。いつもなら聞く側の彼が声を掛けてきたのは。そのことにリナリーはまた体を強ばらせ、黒い、少し大きめの個体を凝視した。ここには普段助けてくれる頼れる兄は居ない。自分がなんとかするしかないのだ。
「…神田…?あのね、今夜…今夜は、星が綺麗なの」
一番伝えたい言葉を残して、リナリーはふと見えた窓の景色を口に出す。それで?と、続きを促す彼に甘えて、話続けた。
「7月7日にさ、お姫様と王子様が空で逢うのってさ…、」
「七夕か? 」
言おうと思った疑問への答えを先に言われて、彼女は少しだけ面食らったが、何事も無かったかのようにまた、話し始めた。
「うん。天の川、今日見れるかな?」
少し話が突飛過ぎるかもしれないと感じたが、電話の向こうは何も言わないのでよしとしておこう。しかしいくら待っても返事はなく、もしかして寝てしまったのかもしれない、と、彼の名前を2、3回読んだその直後だった。
「こっちも星が沢山見える。これだけありゃ、逆に見えないかもな、天の川」
先程の長い沈黙は、自分の為に外の星の様子を見に行ってくれていたものだったのだと知ると、リナリーは、彼とまだ話が出来ることに安堵した。
「見たいな…、天の川」
「俺も……お前の隣で見たかった」
少ししょんぼりと落ち込んでいた矢先にそのような甘い言葉を言われて、リナリーは一瞬言葉を失った。しかし次の瞬間には、きっと電話越しに照れているだろう神田を想像し、密かにぷっと吹き出した。
「神田」
「あ?」
やっぱりさっきより機嫌が悪くなっている。そのことがとても可愛くて、とても愛しくて、リナリーは微笑んでゆっくりと、噛みしめるように見えない恋人に向かって言葉を紡いだ。
「会いたい」
Falling Star
(会いたい逢いたい愛たい)
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