D.Gray-man
□LOVE・ing
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どこまでも続きそうな長い廊下に彼女はいた。周りの闇に溶け込んでしまいそうなくらいの黒髪を揺らし、目的の場所まで走っていた。
「リナリー?」
ふと声がした方向を振り返ると、明るい笑顔を浮かべた赤い髪の青年がこちらに近づいてくる。
「ラビ!」
ラビはリナリーの正面まで来ると、その箱は何さ?と聞いた。今日が何の日かきちんと分かっていて、これをあげる人物も全て知っているくせに、そんな質問をするのは意地悪よとリナリーは思ったが、敢えて何も言わなかった。
「ユウに?」
「ええ」
ユウは幸せ者さー!とにっこり笑って告げる彼に、リナリーはそうかしら、といった。
「最近、神田ったら冷たいの」
もしかしたら、受け取ってくれないかもしれない。要らないといって突き返されるかもしれない。恐いの。とても。
「でもさ、」
ラビは再びにっこり笑った。
「ユウってああ見えて意外と優しいって、一番知ってるのはリナリーだと思うけど」
「でも…、」
リナリーが顔をうつむけたそのとき、
「リナリー?」
聞き覚えのある愛しい人の声。振り返ると神田がこちらに走ってきていた。
頑張るさ。そう言ってそそくさと立ち去るラビにちっ、と舌打ちをした彼は、赤毛の青年と同じ様にリナリーの正面に立ち止まった。
「あの…ね?」
話を切り出したのはリナリーの方で。
これあげると言い終わらないうちに、手の中に箱が無い事実に気づいた。
きょとんとして顔を上げると、たかだかに持ち上げられた綺麗な藍色の立方体と、そうそうにそれを破る黒髪の彼が。
「あっ…!」
リナリーが取り返そうと手を伸ばしても、もうその姿はなくて、中に入っているチョコレートは神田の口に吸い込まれていった。
「…うまい」
普段見せないとびきりの笑顔を見せた彼に、リナリーは安堵の溜め息をついた。
「俺がさ、お前からのチョコを受け取らない訳がねぇ」
ぼそりと呟いたその台詞に、リナリーは全てを悟った。この人はさっきの会話を全部聞いていたのだ。
「嫌いだったらとっくに別れてんだろが。」
それもそうだ。神田はそういう性格なのだ。そしてそれを一番知っているのは、幼少の頃から一緒に居たリナリーだけなのだ。
神田はもう一度、うまいと呟きながら、リナリーをそっと抱きしめた。
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