血痕

□A
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「…っ」



扉が開く。
真っ先に鼻が嫌な臭いを感じ取り、続けて目が部屋の中の惨状を映す。



「酷いね、割と」


「…割と所じゃないわ」



悲惨だった。
床、壁、更には天井にまで飛び散る血の痕。それらの元であろう男達は皆一様に床に伏せていた。今晩、此処で麻薬取引をする筈だった奴ら。



「ふぅん…波月、」


「なに?」


「相手は相当な強者らしい」



…強者?
私の心中を察したのか、恭弥はここ、と言って死体の傷を指差した。正確には、その傷口に綺麗に刺さったナイフを、だが。



「恐らく、致命傷はこの一撃。相手は最初の一撃でこいつらを仕留めてる」


「…でも、その割には部屋が悲惨なことになってるけど」


「わざとそうしたんだよ。…何が目的かは知らないけどね」


「…」



何が楽しいのか、恭弥の口元は吊り上がっている。私は壁のあまり汚れていない部分に背を預け、目を閉じた。慣れているとは言ってもあまり気持ちが良いものではない。…それにしても、この胸騒ぎはなんだろう。今夜潰す筈だった奴らが既に潰されていた。深く考えすぎ、なのかしら。ふぅ、と息を吐き出した時だった。



「?」



違和感を感じて感覚を研ぎ澄ます。すると、カチ、コチ、という小さな音がする。時計…?しかし、部屋を見回してもあるのはデジタル時計だけで。…まさか、ね。一抹の不安が過ぎって、それを確認するために私は壁を触り始める。



「何してるの」


「…少し、捜し物」



手探りで壁を触っていると、一カ所柔らかい部分があった。…成る程、これじゃ見ただけでは解らない。悪い予感が外れていることを祈りつつ、その部分を破壊、すると。



「…あぁもう、」



そこにあったのは、不気味に時を刻む時限爆弾だった。
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