血痕
□F
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「・・・僕がヴォルト家警護?」
フランが訪れた次の日、談話室にて不満そうな声を上げた恭弥。その原因は、言わずもがな私にある。
「恭弥しかいないのよ、いざという時ヴァンパイアに対抗できるのは」
「僕は君の護衛を、君の血と引き換えにしているだけだ。どうして何の借りもない奴を守らなきゃならない」
「恭弥、」
お願いだから。
どう考えてもこうするしかないのだ、相手がヴァンパイアである以上、それを生け捕りにする役目なんて彼のほかに誰に務まるのだろう。
「六道にやらせればいいだろう」
「ええ、僕もそうしたいのは山々なんですが」
ちらりと彼の視線がこちらに向く。骸がこの任務に関わることを却下したのは私だ。ヴァンパイアに対して私怨がある骸は、冷静さを失う恐れがあると判断した。
「お願いよ。ほら、今なら隼人と武も付けるから」
「人をおまけみたいに言うんじゃねぇ」
「・・・・」
「頑張ってくれたら文字通り出血大サービスしてもいいわ」
「・・・・・・・・はぁ」
溜息は承諾の印。ありがと、と返せば、なにそれ気持ち悪いよ、と言われ危うくティーカップを無駄にするところだったが何とか抑えた。代わりに一つ咳払いをして、綱吉に用意させた木箱を彼に渡す。
「・・・なにこれ」
「私からのプレゼント。開けてみて」
開けるまで私が何も言わなさそうだと判断したのか、恭弥は素直にその言葉に従い蓋を開けた。中から現れたのは、
「トンファー、ね」
「そ。恭弥に合うかと思って」
「へぇ、そこそこいい趣味してるね」
二、三回確かめるようにそれを振り回したかと思うと、満足したのか、彼は口角を上げてトンファーを袖の中へと隠した。そこでふと、真剣な表情になった恭弥。思わず出そうになった言葉を止める。
「昨日も言ったけど、本当に・・・嫌な予感がする。気をつけなよ」
「・・・大丈夫よ、寧ろ危ないのは恭弥の方だわ」
「だといいけど。・・・出血大サービス、期待してるよ」
そう言うと、恭弥はひらりと窓から飛び降りて。慌てて追いかける隼人と武を見送りながら、紅茶を一口啜った。ああ、おいし。
「でも、嫌な予感ってなんでしょうね」
「・・・・」
「そうですね、あのヴァンパイアが言う事など当てになりませんが・・・まぁ一応警戒しておきましょう。どちらにせよ、僕たちがいる限りは大丈夫ですよ」
「ん、そうね。二人が守ってくれるもの」
「はい」
そう、相手が人であるならば―――私の守護者は負けない。
今まで信じてきたその言葉を繰り返す。しかし小さな不安は消えなかった、理由は分かり切っている。私自身、“人であるならば”という前提に引っかかっている。嫌な想像が脳を掠め、私はそれを封じ込めた。大丈夫、そんなことは滅多に起こらない。
しかしこの晩、残念ながら―――私の予想は、的中することになる。