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□恋
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「はぁ……」




真っ白なキャンバスを持って溜め息をつく。駄目だ、やっぱり。他のものなんて描く気になれない…

ふと窓の外に目をやると、そこには―――







―――綺麗……。










桜の下に佇んでいる彼の姿があった。

彼を初めて見たのはこの中学の入学式――つまりちょうど二週間前だ。
桜の桃色に映える黒髪の彼が、まるでこの世のものとは思えないくらい綺麗で…、私は一瞬にして心を奪われた。彼を描きたい、そんな思いばかりが募って、このニ週間まともに何も描けていない。唯一描いたのは、彼と桜を思いながら描いた、彼抜きの桜だけ。そして、今や放課後に必ずあの場所に現れる彼を眺めるのが日課になっている。



「…せめて、許可だけでも貰えたらなぁ………」



でも、それは無理な話で。
なぜなら、彼はあの“雲雀恭弥”だから。群れることを嫌い、風紀を乱す輩には容赦ない制裁が加えられる。恐怖の対象なのだ。私自身は、そんなことこれっぽっちも思っていなかったけど。

見ると、下校時間を少し過ぎていた。彼もいつの間にかいなくなっている。私は、尽きることのない憂鬱を抱えながら美術室を出た。
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