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□る
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『君が描いたあの桜の絵、好きなんだ』
ひばりさんはそう言った。
そして、君になら僕を描いてもらってもいいかな、とも。つまりは、本人直々に描く許可をいただいた訳で。今日は、ひばりさんがモデルとして来てくれる最初の日ということになっていた。
「う〜…」
画材を確認してみたり、窓から外を覗いてみたり。なんだか落ち着かない。よし、顔を洗ってこよう、そう思ってドアに手をかけた。
「きゃうっ!?」
「…どこ行くの」
「ひ、ひばりさっ…」
ひばりさんに正面衝突。
あ、今絶対馬鹿な子だと思われた。すごい呆れた顔してるし。
「準備は出来てるの」
「はいっ、そりゃもうばっちり!」
「…そう。」
用意してあった椅子にひばりさんが腰を下ろす。自然に組まれた足がすらっと長くて、思わず見とれてしまう。
「…描かないの?」
「へ…あ、すいませんっ」
ま、またやっちゃった…
急いで鉛筆を手に取り、そしてひばりさんを描き始める。描いてる間、私の胸はどきどきしぱなっしで。暫く描き進めていくと、ひばりさんがくぁ、と小さく欠伸をしたのが見えたので私は手を止めた。
「…あの、」
「何?」
「退屈、でしたか?」
まぁそもそも絵のモデルというのは暇なものなんだけど。折角来て貰ったのに申し訳ないなぁ、なんて。
「…いや、昨日は仕事が溜まっててあまり寝てないだけだよ」
暫く寝る、そう宣言してひばりさんは座ったまま目を閉じた。…うーん、まぁいっか。本当は起きてるひばりさんが描きたかったんだけど。ひばりさんは寝ていても絵になる。
(…綺麗)
ふぅ、デッサンをし終えて思わずため息が零れる。…ちょっとくらいなら良いかな。静かに近寄ってそして、そっと彼の頬に触れた、瞬間。
「…きゃっ!い、たぁ」
「…君か」
ひばりさんがカッ、と目を開け、気付いたら私は床に組み敷かれていて。首にはひばりさん愛用のトンファーが宛てがわれている。か、咬み殺される前にひばりさんが覚醒してくれて助かった…!
「君がいきなり触るから…危うく殺してしまうところだったよ」
「う…すみ、ません」
ひばりさんがもう一度欠伸をして、絵の方は進んだの、と聞いてきたので私がデッサンだけ終えたことを告げると、彼は黙って私の上からどいた。もう、帰っちゃうんだ…。暫く突っ立ていると、ひばりさんがじれったそうにこちらを向いた。
「何やってるの、早く帰るよ」