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□そういうとこ、狡いです。
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「忙しいのは分かってるんだよ、忙しいのは!だけどさぁ...」
酒に酔った勢いで大声でわめき散らして迷惑この上ない、まぁ、周りの客も同じように酔っているので関係ないといえば関係ないが。気にするのは店員と私の隣の友人くらいなものだ。
「うっさい、迷惑。分からんこともないけど、だからって私に当たるな」
「うーー...」
「それとあんた、酔いすぎ。もう止めといたら?」
「雲雀さんが悪いんだもん!」
「子どもか」
そう、彼が悪い。
ぷぅ、と頬を膨らました私を一蹴した 葵 は、日本酒を一気に飲み干したにも関わらず涼しい顔だ。そういえば雲雀さんもお酒は日本酒しか飲まないなぁ、なんて思って溜め息をつく。折角彼のことは忘れようと呑んでいるのに、これじゃかえって逆効果。
「今なにしてんのかなー...仕事、大変そうだったしなぁ。ねぇ、どう思う?」
「私が知ってるとでも?」
「んー...電話したら迷惑かなぁ、迷惑だよねえ」
「...」
「ちょっとでも声聞けたら、さぁ。」
「あんた、大丈夫?」
「......浮気、とかじゃないよね」
「いやだから、私が知るわけ、」
「だって雲雀さんあんなに格好良くて仕事できてクールなんだもん!そりゃあちょっと厳しいけどさ、頑張った時は褒めてくれるし、」
「あのー、もしもし?」
「2人でいる時はなんだかんだ言って優しいし、最終的には折れてくれるし、いざという時には守ってくれるしさー。そうだよ、そんな人を周りがほっとく訳ないんだよぉ」
「分かった、あんたが雲雀さんを大好きなのは分かったから」
「きっと私なんかじゃ相応しくないんだあ...きっと、きっと秘書の泉さんとか新入社員の華原さんとかがお似合いなんだ...わた、私なんか。そりゃ、大して可愛くもないしそんなに仕事もできる訳じゃないけどさぁ。」
「...」
「雲雀さんのこと一番好きなのは私なんだから!絶対、絶対にそれだけは負けないんだからぁ、ひっく」
「私、お手洗い」
もう何杯目か分からないお酒を流し込む。もう、なんか分かんない。分かんないけど、淋しいよ、雲雀さん。いつの間にか涙がぽたりぽたりと机に落ちていて、でもそれを拭う気もしなくて。お酒が回った頭では思考回路も朧気だ、ただただ淋しい、会いたい、声が聞きたい、触れたい、触れられたい、抱き締めて欲しい、なんて言葉がぐるぐる浮かんでは消える。すん、と鼻を啜って机に突っ伏した。もう、雲雀さんなんか、知るか、ばか。大晦日に重要な仕事が入ったからって彼女との約束をキャンセルする雲雀さんなんか。
どのくらいそうしていただろう。
ふと人の気配を感じて顔を上げるとトイレから帰ってきた 葵 がいた。彼女は思いっきり顔を顰めたかと思うと「うっわ、酷い顔」と私に止めを刺した後、これから用事があると荷物を纏めてさっさと帰ってしまった。
なんだよ、付き合ってくれるんじゃなかったのかよ。そう思ってしまった自分は相当卑屈になっていると思う、 葵 にだって彼氏はいるんだ、その時間を削ってまで私に付き合ってもらっていた手前、感謝するのが当たり前なのに。
「お待たせしました」
雲雀さんとは別の意味でモテそうな店員さんが、私の注文していたお酒を置いて去っていく。お兄さんもこんな日に働いてるなんて、お互いになんだか気の毒ですねえ、なんて絡みそうになったのをぐっと堪え、運ばれてきたお酒をぐいっと飲む。その瞬間、感じたことのない、焼けつくような熱さを覚えて眉を顰めた。私、そんなに強いやつ頼んだっけ?流石にこれはマズいと立ち上がろうとすれば頭がくらくらして。そのままの勢いで座席に倒れ込む。うわ、いやほんと呑みすぎたかも。こんな所で寝てたらお店に迷惑だ、と頭の隅では理解していても、迫り来る眠気には勝てる筈がない。あーあ、暫くこのお店に来れないなぁ、なんて思いながらゆっくりと目を閉じた。