文・其之壱

□ホテルTERADAYAへようこそ ≪ROOM NO.2≫
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『…銀時、明日からTERADAYAに勤務だよ。』



「…はぁ?」





この異動があったから、


俺はおまえを意識できたんだよ。













「ちょっと待てよババァ!唐突過ぎんじゃねーの!?」



朝8時。


携帯電話のけたたましい着信音に起こされた俺は、電話の向こう側の元凶に問いかけた。


今日は10時からの勤務だから丁度良い時間に起きれたが、ババァのモーニングコールなんて目覚めは最悪だ。


『社長と呼びなァ!このボケェ!!…ホテル業界みたいな接客業に異動の時期もへったくれも無いんだよ。忙しくなったら行く!!そうでもしないと人員が追い付かないんだよ。
…それに、アンタがやりたがってた黒服…出来るみたいだしねェ?』


「…まじでか。」


『と、言うわけで明日の昼には出勤するように!もちろん今日の仕事も手を抜くんじゃないよ!』


言いたい事だけ言って切れた通話口から、ツー、ツー、と音が聞こえ始めても俺は耳を当てたまま固まっていた。




―黒服が出来る。





その言葉が頭の中を駆け巡る。

(…やった。ついにやったんだ俺は。)



高揚する胸を押さえて、出勤の支度を始めた。




















結局、次の日は寝坊をしてしまい、ホテルTERADAYAに着いたのは正午を半分も過ぎた頃だった。


社員通用口から入ると、すぐにゴリラが立っていた。


「あ、あの〜…坂田と言う者ですが…」


「おお〜!!!待っていたよ坂田君!!!俺は料飲課課長の近藤だ!!よろしくな!早速なんだが模擬披露宴会場に行くぞ!!もう入場が始まってる頃だ!着替えも後にしよう!」


なんとも豪快なゴリラ課長に連れて行かれながら話を聞いた。

営業課から宴会サービスに異動になったばかりの黒服が今日の模擬披露宴で初めて担当を勤めるらしい。


つまり俺とは黒服の同僚になるわけだ。


俺は他のホテルで散々アシスタントをやってきたおかげで黒服を見る目は鋭くなった。


その新人黒服とやらは宴会に入ってまだ数ヶ月で黒服になってるのだ。



(どんなヤツか楽しみだな…いじり甲斐があるヤツだといいな。それで鈍くさかったらイジメ倒してやる…)



鈍くさいヤツなんて仕事の邪魔になるだけだ。


今までだってそうやって何人も辞めさせてきた。


俺がヘルプだろうが何だろうが関係無い。


接客業はそんなに甘くないから。










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