文・其之壱
□ホテルTERADAYAへようこそ ≪ROOM NO.1≫
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2月に入って、スーツから真っ黒いジャケットの制服になった。
襟元には黒の蝶タイをつけている。
最初から黒服というのは気が引けたので、慣れるまでは山崎や志村弟と同じグレーの制服をと申し出たのだが、光の速さで却下されてしまった。
「土方さんは黒が似合いますから〜。無駄な悪足掻きはしないでくださいね。」
と志村姉が溢れる笑顔で後ろに悪魔を背負いながら言い放った。
逆らっても無駄だと本能で悟った為、大人しく新品のジャケットに袖を通した。
(いつも着てたスーツとは違う…なんか肩が自然と強張っちまうな…。)
オフシーズンと言っても、会議や宴席、立食パーティーなどがポツポツあったため、毎日バタバタとしていた。
とにかく覚える事柄が多すぎるのだが、慣れというのは怖いものだ。
1カ月もすると、備品の場所はすっかり覚えてしまった。
地上18階建てのホテルTERADAYAには宴会場が大・中・小それぞれ一つずつと小部屋が3つある。
外装も内装もチェコのプラハをモチーフにした、派手に着飾っていなくて落ち着いた雰囲気の建物だ。
宴会場大(翠鳴館)と小(ルツェルナ)は3階。
宴会場中(アドリア)と小部屋3つ(アイリス・リリー・ローズ)は5階。
宴会厨房と全てのシルバー関係も5階にある。
事務所や休憩所、チャペルは2階に、
和食レストランと連結している神殿は6階だ。
1階にはフロントと洋食レストラン。
17階には中華レストラン。
17階にある受付から行ける18階にはスパがある。
但し、建物自体がそれほど大きくないからバックヤードや倉庫は狭かった。
あまり広すぎても管理が大変なのだが。
サービスも、志村姉弟や山崎、長谷川さん、慣れている学生のバイト達の動きを真似していった。
トレーの持ち方から始めた割には、なかなか様になっていき、オードブルの皿なら左手だけで3枚持てるようになった。(ミート用の皿はデカいから2枚が限度だ。)
黒服としてはまだ一つの宴席を担当する事は無かったが、長谷川さんや他の黒服にくっついてノウハウを教わった。
マニュアルなんてあるわけではなく、毎回がぶっつけ本番のようで緊張しまくっていたが、営業時代の顧客に声を掛けられたりする事が割と多く、顔を覚えてもらっていた事が嬉しかった。
結婚披露宴は週一くらいで入っていたので、サービスのみに徹しつつイベントの流れを体に慣れさせた。
担当したウェディングプランナーによって、演出にかなり差がある事がわかった。
特に総悟のはタチが悪い。
友人の余興には必ずと言っていいほど、巨大クラッカーを使わせるような内容を提案するし、
シャンパンタワーやダンス披露など、サービス側の人間が片付けにかなり苦しむような演出ばかりだ。
…まぁ、さすがはドS王子なんだけれども。
レイアウトやセッティングも宴会のチームワークの良さを思い知らされつつ、徐々に覚えていった。
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