文・其之壱

□ホテルTERADAYAへようこそ ≪ROOM NO.2≫
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ゴリラが会場の扉を少し開けて中を窺い、手招きをしてきたので中へ入った。


丁度入場が始まる直前で、司会者が客に入場口に注目するように、とアナウンスが入った。


BGMが流れて扉が開く。





入って来た人物に目を奪われた。




髪も服も黒く、整った顔が薄暗い会場でも良く分かった。



一度真っ直ぐ前を見据えて一礼をする所作の美しさに息を飲む。


白手に覆われている揃った指先が、新郎役のモデルに向けられてスポットライトが当てられる。


(そんなヤツより黒服に当ててくれ…)


新郎新婦がゆったりと会場を横切る間、俺は先導をするキレイな顔をした黒服から目が離せなかった。









入場が終わるとゴリラが制服を用意すると言うので、まだ見ていたかったが渋々会場を後にした。



「はい!制服だ!更衣室はここの突き当たりを右だ。着替え終わったらさっきの会場に来てくれ。みんなに紹介するからな!」


そう言うとゴリラは事務所の方に去って行った。



渡された制服を抱えて通路を歩き出すと、聞き慣れた声に呼び止められた。




「銀ちゃ〜ん!!」


「んあ?…神楽!!こっち戻ってたのか!」


「ウン!お登勢さんが今日から銀ちゃんココで働くからって連絡くれたアル!丁度コッチにいるから寄ってみたんだヨ!」


「そうか。わざわざどうもな。」

神楽はこのホテルの会長だ。


年齢はわかんねーが、噂では裏社会を取り締まるボスだとも言われている。


最近は大企業の社長である父親にくっついて世界中を飛び回っている。



それに、俺をこのホテル業界に引きずり込んだのは、この神楽だ。


ババァの経営するホストクラブで働いていた時の上客で、気まぐれに来ては金を落としていってくれた。


その後あるいざこざでホストを辞めざるを得なくなった俺にホテル業界に推し勧めたのだ。


最初は渋々だったが、ババァから松平さんの話を聞いて段々と憧れるようになった。


もう、ホストになる気になんてならなかったし、接客業なら大歓迎だ。


それに、ちゃんとした仕事だし、俺の目的も叶えやすくなるだろうから。






「銀ちゃん、やっと黒服アルな。色んなホテルで修行させてきた甲斐があるってお登勢さん言ってたヨ。」


「…修行だァ!?ありゃ拷問だったぜ…人使い荒すぎだっつーの。まぁ、おかげでスキルは身に付いたけど………ってゆーか神楽ちゃん?ここ男性用更衣室なんだけど。何でのんびり酢昆布食ってんの?」


「んな細かい事気にすんなヨ。それにもう行くアル。パピーと定春待たせてるカラ。じゃーな〜!せいぜい頑張るヨロシ。」

「お、おう…。
……いつも突然だなアイツは…。」



ひらひらと手を振りながら去って行く神楽の後ろ姿を見届けて、スラックスを履いた。








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