novel
□舞踏会
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流れるのは“円舞曲”。
旋律にのって、躍る紳士淑女。
微笑みの内に欲望を、眼差しの内に羨望を。
踏むステップは相手の内を暴く為に。
優雅に、艶やかに、ゆっくりと滑り躍る。
そんな煌びやかなホールの片隅。
一人の女性が窓の外を眺める。
その美貌で数多くの男達を魅力しながらも、その誰の手もとらない。
国で開かれる舞踏会には必ず呼ばれ、彼女はその全てに赴く。
しかし…彼女がステップを踏むところを見た者はいない。
彼女は舞踏会に出向いても、窓辺で音楽が流れ終えるまでずっと夜空を見ている。
まるで…誰かを待ちわびるように。
ワイングラス片手に、一人の男が近づき囁く。
「やぁ、ニシェル=モニカ。相変わらずお美しい。一曲、如何かな?」
「シューメン=ハイツ…」
男は近くのウェイターにワイングラスを渡すとそっと右手を差し出す。
「…結構です。他の女性を誘ってあげては如何かしら?先程から熱い視線を受けているようですけれど」
そう言うとニシェルは遠巻きにシューメンを見つめる女達に視線を移した。
シューメンは上級貴族の長子。
切れ長の目は鋭く、見つめられた者を一瞬で引き込む。