BOOK3

□05.あの日、ぼくらは恋をした
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窓辺から流れ込む風に微かな音色が混じる。耳を澄ませば微かな歌声と歓声らしきものが聞こえた。

(……そういや、吟遊詩人が来てるって言ってたな)

今朝方、興奮気味にテッドが話していたのを思い出す。下町に来るかな、と騒ぐ彼に貴族相手の金稼ぎだろ、と答えたような気がする。向こうだって金を稼ぎに来てるんだから、下町の相手などせず、始終貴族の相手をして立ち去るだろう。
そう思っていたのだが、どうやらこの喧騒は下町の広場からのようで。

「……ちょっくら見に行ってみますか」

暇なのと僅かな好奇心が相まって、剣を掴んで窓から飛び降りた。





近づくにつれ、聞こえていたものがはっきりとしてくる。広場一杯に染み渡るような澄んだ歌声に、声を引き立てる楽器の音色。人垣の隙間から覗き込めば、一人の少女が歌っているのが見えた。弦楽器を手に瞼を下ろして、朗々と語り、歌う。小柄なはずなのにとても存在感が強い。

一曲終えた少女に続くアンコール。それに答えようと少女が楽器を手にする。

「待つのであ〜る!」
「そこの吟遊詩人、城に参内するのだ!」

その邪魔をするかのように騎士が二人、少女の前に立って城に連れていこうとし始めた。こっからじゃ、会話はあまり聞こえないが、少女が嫌がっているのは分かった。取り敢えず辺りを見渡して使えそうなものを探す。……騎士が嫌いなのもあるが、一曲聞かせて貰った礼として手助けくらいしてやろう。

「しゃあねーな、っと!」「うっ!」
「ぐぇっ!?」
「え!?」
「逃げるぞ!」

手頃な石をデコボコに投げ付けてから、驚く少女の手を取り走り出す。周りが騒ぐのも無視して、一先ずその場所から離れた。





「……まあ、ここまでくりゃ大丈夫だろ。大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます」

荒く肩で息をする少女に声を掛ければ、思ったよりしっかりとした声が返ってきた。ぺこりとお辞儀をすると淡い色合いの髪がはらりと溢れる。

「ん、おお。気にすんな」

軽く答えれば少女が顔を上げる。その相貌に心臓が高鳴った。少女は少女で繋がれたままの手を見て真っ赤になっている。

「なあ」
「はい?」
「オレ、あんたに惚れたかも」





あの日、ぼくらはをした
(ほ、惚れ……っ!?)
(本気だぜ、オレ?)
(…………っ!?)


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