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□第五話 「空色詩集」
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第五話 『空色詩集』
空にどんよりと暗雲が立ち込めて来た。
…あ…確か、朝のニュースで嵐が来るとか行ってたっけ。
暗い雲は、金蔵の元へと話を聞きに行く名無しさんの心の中を不安で満たしていった。
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―10月4日午後6時38分
『…う…』
強風とぱらついてきた雨に煽られながら、早足でゲストハウスを通り過ぎ、金蔵の部屋の前へと足を進める。
ぽつぽつぽつ、細かい雨が身体中に当たって不快な気分になった。
所々、薔薇の花弁が散って強い風の中を踊っているかのように閃き、
紅く舞うそれは、ひらりと私をかわしながら深い緑の森の奥へと吸い込まれるかのように消えていった…。
“一つ、二つ、三つ、全てが消えたら其処で御仕舞い。後は何にも無くなる、ただぽっかりと穴が空く。
全てが終わり、始まる事は二度と無い、さあまた、一つ、二つ、三つ。”
昔読んだカバーが空色の詩集に、そんな詩があったのを思い出した。
カバーの雰囲気とは全く正反対な感じの詩を読んだ時は、身の毛がよだつ想いをしたかな。
『(…一つ、二つ、三つ……)』
ざざあ、と風が紅い花弁を浮かせ、踊らせ、拐って行く。
四つ五つ六つ七つ八つ………十八。
これ以上はきりが無いので名無しさんは十八で数えるのを止めた。
そしてもうすっかり暗くなってしまい、ちらほら見える屋敷の灯りを頼りに名無しさんも金蔵に会おうと言う思いで徐々に闇に溶けていった。
…名無しさんは気づかない。
名無しさんの衣服に、紅色の薔薇の花弁が一枚付いていた事を
ほおら、これでまた一つ花びらが闇に消えた。
消えた花びら十九枚。茎だけの薔薇が一つ。
可笑しいね。十九枚全ての花びらが一つの薔薇からとられたのかな
本当、一つの薔薇から全てが消えた。
さて、後は、何も
残らない
ふと白い少女が何処かで笑った
END