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□第七話 「崩壊」
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第七話 『崩壊』
まだ私は呆然としている。だって、おかしい。
何で?今日まで平和だったのに。
どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして、
こんな、日常を崩すような。
「くっははは……さあ名無しさん。少しロケットを貸せ。」
『は、い…?』
一通り笑い終えた金蔵が真顔に戻りロケットを渡せ、と言う。
ロケットとは、今私の胸辺りで輝いている片翼の鷲の羽を象った金色の物を指す。
話に寄ると純金が入ってるとか何とか。
「…早く貸せと言っておる…!」
『え、うわっ!?』
グンと手首を引っ張られる。
金蔵なりの優しさだろうか、引っ張られた手首は余り痛くなかった。
かちゃりと金蔵のでかくて皺が有る手でロケットの金具を外される。
静かに取ったロケットの蓋を金蔵は開く。
開いた中には、何も無い、空っぽの硝子が覗いた。
「…名無しさんには此をやろう。まさかとは思うがな、ベアトリーチェは気まぐれだ。名無しさんを殺すかもしれん。だから、此は一応の保険だ。肌身離さず持ち歩け。」
金蔵が懐から小さな小さな蠍を取り出す。
と言っても、生きている蠍では無い。眼が紅く、体は銀色の動かぬ蠍だった。
それを金蔵はロケットにそっとしまい込み、蓋を閉じた。
その行為は、儀式の様にも感じる。
「このロケット自体も魔方陣を掛けておるのだがな。これで、二日間は生きられようぞ」
『有り難う、ございます。それと……………金蔵お爺様。』
「何だ」
『今まで、有り難うございました。』
何故だか、解らないけど、まだ理解はしてないけど、
「うむ。願わくば、黄金郷であいまみえようぞ。…名無しさんも腹が減っておろう。下へ行き夕食を食べてこい。それと、外の連中に伝えといてくれ。
…私は、お前達とは話さぬ、と。」
『…はい、分かりました。』
チャリ、金蔵に背を向けた時に、黄金のロケットが閃いた。
もう多分、金蔵お爺様には会えないだろう。
そう、私の直感が案じていた。
それは、ゲームが始まると認めてしまった事…
静かに闔を開けると、目に入ったのは、血相を変えた蔵臼さん達で。
それを淡々と見てから、闔を閉めた。
オートロックが掛かる音が響き渡る。
「…あ、名無しさん、ちゃん…?此処に居たの…!?」
絵羽さんの掠れた声を聞き、金蔵お爺様の伝言を告げる。
『金蔵お爺様は、皆さんと話したくないそうです。早々に、ご引き取り願えと。そう言っていましたよ』
「だがな名無しさん…お前も聞いただろう!?ゲームの事を!!」
蔵臼さんが食ってかかる。
『…うん。私も止めようとしたけど、お爺様は、もう変えないようです…』
俯き、名無しさんは項垂れた。
「ふ…ッざっけんじゃないわよ!!!!」
『う、!?』
ガバッと絵羽に胸ぐらを掴まれる。
いきなりの事に名無しさんは息を詰まらせた。
「何よそれッ…!!!!名無しさんちゃん、貴方お父様と話せたくせにゲームだかを止める事すら出来なかったのう!?貴方なんて右代宮の人間でも無い癖にッ、血を引いていない癖に、お父様と話すなんて、生意気なのよぉおッ!!!失せろ!!この、余所者めぇええ!!!!!!!」
“余所者”
絵羽が放ったその言葉に、名無しさんは心が抉り取られたような感じになり、絶望した。
刹那、ハッと絵羽が気づく。
何で、私はこんなに酷い事を、名無しさんちゃんに、
言ってしまったの
「名無しさんちゃ『…っ!』
咄嗟に謝ろうと口を開くがそれより早く名無しさんは絵羽の手を振り払い廊下を走っていってしまった。
その時、名無しさんの眼から透明の液体の粒が溢れていたのを戦人はしっかりと見てしまう。
「ッ……絵羽、おばさんっ…!!!!!」
ふつふつと何かが込み上げてきた。
余りに、酷いぜ。
名無しさんは、右代宮の血は引いてないけどな、もう右代宮の一員なんだろ…ッ!!!
「戦人君…あぁぁぁあぁっ!…私、私は、何て酷い事を名無しさんちゃんに…っ!!!」
「お母さん!名無しさんちゃんを探して、そして謝ろう!それしかないよ…」
「そうだ絵羽!早く、名無しさんちゃんをさがすんや。皆も手伝ってくれ!あの様子だと、外に行きそうや!もう外は嵐、危ないぞ!!」
「では貴方、私達は薔薇庭園を!」
「私も行くぜ!」
「真理亞、私達はゲストハウスを探しましょう!」
「うー!!!名無しさん、探す!うー!」
「それじゃあ俺達は森を捜そうぜ。霧江、懐中電灯とかあるか?」
「ちょっと聞いてくるわ!」
「…戦人、行くぞ」
「………おう。」
一刻も早く名無しさんを見つけて、安心させねえと。此処がお前の家だってな。
待ってろ、名無しさん。
そうして、金蔵の部屋の前からは誰も居なくなり、静寂が訪れた。
一人金蔵は、
「くくくく…阿呆めが、名無しさんを泣かせよって…名無しさんの態度に寄って死ぬかもしれないのになァ???くきッく、かかかかは、はははははははははははははははははははははははひ、はひはははは!!!!!!!!」
勝ち誇ったかのように笑んだ。