銀魂小説
□おめでとうの一言
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別に誰かに祝って欲しい訳じゃない。ただ、笑いあっていたいだけだ。
【おめでとうの一言】
GWも今日と明日で終わる5日。俺は何故か朝っぱらから総悟に命を狙われていた。
「ひ〜じ〜か〜たァァァ!!」
「だぁぁぁ!!何なんだよテメェ!んなもん持って追い掛けてくるなァァァ!!」
バズーカを担ぎ、意外に全力で追いかけてくる総悟に俺は本気で命の危険を感じ、転がるように屯所を飛び出した。
屯所から離れた場所にある公園に逃げ込み後ろを窺ったが、いつの間にか総悟の姿はなくなっていた。
俺は一息つき、ベンチに倒れるように座った。
「…し…死ぬかと思った…」
「あれ?何してるネ、マヨ方」
「…チャイナ?」
可愛らしい声が聞こえたと思い顔を上げれば、日よけがわりに傘をさしたチャイナ服の少女が不思議そうに俺の事を見ていた。その後ろには巨大な白い犬もいる。
「こんなところで何してるアルか?仕事は??」
「あー…さっき総悟に追い掛けられててな。それと仕事は休みだ」
「ふーん。何だ、これでお前もマダオの仲間入りだと思ったのに」
「おいコラ。不吉な事言うんじゃねぇ」
俺は盛大にため息をつき、どっかりとベンチに背を預ける。そして何故かその隣にチャイナが座った。
「……何してんだ、お前」
「暇ネ。相手してヨ?」
「何で俺が…万事屋やあの眼鏡の餓鬼はどうした」
「銀ちゃんは家に恋人連れ込んでイチャイチャしてるネ。新八はライブがあるとかでどっか行ったヨ」
「そりゃ…暇だな」
懐から煙草とマヨ型ライターを出し、火を点ける。プカプカと浮かぶ煙を見ながら「そういや俺も暇じゃね?」と思う。
そう思っているとクイクイと袖が引かれる。何かと思い横を見れば、チャイナが視線は公園の奥の方にありながら、俺の袖を掴んでいた。
「…何だ?」
「ねぇ、アレ何アルか?」
「アレ?」
指を指された方を見ると巨大な布の鯉が優雅に空を泳いでいた。
「あぁ、あれは鯉のぼりっつってこどもの日になるとあぁやって子供の成長を願って飾るんだ」
「へぇ〜!凄いアルなっ!私も欲しいね!!」
「ありゃ男だけだ。女は桃の節句の時に雛人形飾られるだろうが」
「あっ姉御の家に飾ってあったのはそういう意味だったアルか!」
キラキラと目を輝かせてチャイナが声を上げる。
「マヨ方もあれっ揚げてもらったことあるアルか?!」
「あぁ…兄貴が揚げてくれた」
「へぇ〜〜!いいアルなぁ!」
家に揚げられていた鯉のぼりをぼんやりと思い出しながら何かを忘れていることに気づく。
だが、それが何なのかは全く思い出せない。
「(あれ…?何か大事なことを忘れてる気がすんだけど…何だったっけ?)」
「マヨ方!私、新八の家に行ってみるネ!もしかしたら鯉のぼり飾ってあるかもしれないネ!」
「そうだな」
「じゃあな、ニコチン多量摂取野郎」
「何で最後の最後で暴言?!」
定春行くアルよー、と公園にいた子供を追い掛け回していた巨大な犬に声をかけ、チャイナは公園を出て行くのを顔を引きつらせて見送る。
一人になった俺は咳払いをし、優雅に揺らめく鯉のぼりを見ながら、再びタバコをふかす。
煙を吐きながら鯉のぼりに問いかける。
「何忘れてんだぁ?俺はぁー…」
ものの見事に無視を決め込んでいる鯉のぼりが俺の問いに答えることは一生ないだろう。