銀魂小説

□酒の誘惑 取り返しのつかない真実?
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高杉は困惑した。
朝、ズキズキと痛む頭を押さえ目を開けるとアルコールの匂いが充満した部屋に自分も含め、男が4人、何故か真っ裸で酒瓶に囲まれて寝ていたのだ。
目覚めない頭をフル回転させ、高杉は何故このような状況なのか思い出そうとして頭を抱えた。



【酒の誘惑 取り返しのつかない真実?】



遡ること前日の午後7時。
高杉は万斉を連れ、馴染みの居酒屋に来ていた。ここの店主は元攘夷志士で昔から高杉と交流があり、江戸に来た際は滞在期間中必ず寄り、たわいもない会話を交わすことにしていた。
今回もいつも通り一人で居酒屋に行く予定だったのだが、何故かおまけで万斉まで同行してきたのだ。



「お前仕事はどうしたんだよ?」
「晋助の護衛も立派な仕事でござる。それに今日は久々の休み。恋人と過ごしたいと思うのは自然でござろう」
「誰が恋人だ。…まぁ、たまには悪かねぇな…誰かと飲むのも」
「同行許可のお礼でござる。今日は拙者が奢ろう。…酌を」
「あぁ…ありがとよ」



ポコポコと徳利から注がれる白濁色の酒を眺めながら高杉は微笑んだ。万斉はこれで空気の読める男だ。無駄に騒ぎ立てたりなどしない。だからこそ自分のプライベートの時間の中にいることを許可した。
高杉はお猪口に並々注がれた酒を持ってくいっ、と煽る。甘くもなく、さりとて辛過ぎでもないその酒は高杉の喉を潤すには最適なものだった。
上機嫌になった高杉は自らも徳利を持ち、万斉に酌をする。



「かたじけない」
「テメェの酒だ。テメェが飲まねぇでどうするよ?」
「いやいや。拙者、晋助がほろ酔いになるところを見るだけでも十分でござるよ」
「なんだそりゃ」



口を開けて笑う。珍しいほど機嫌のいい高杉は万斉のお猪口に酒を注ぎ、自身の持つお猪口にも注ぐと酒が零れない程度に傾けてお猪口同士を当てた。
万斉はその行動に小さく笑った。



「今日の晋助はすこぶる機嫌がよいようだ。楽しく飲めそうでござる」
「不機嫌撒き散らして悪かったなぁ」
「そんなところも晋助の魅力でござるよ」



一々言葉が告白じみていて高杉は何とかく目を逸らして酒を飲む。
静かな時間が過ぎる。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。



「よぉ大将。聞いてくれよ、今日パチンコで大損してよぉ」
「いらっしゃい、旦那。まぁたパチンコやっちまったのかィ。アンタも懲りないお人だねぇ」
「こればっかりは止められねぇんだわ」



ガラリと開いた引き戸から男が店主に声をかけながら入って来た。
天然パーマの銀髪に死んだ魚のような赤い目、着物を片腕だけ通して着たファッション。それはどこからどう見ても戦場を怒涛の勢いで駆け抜けていた若き英雄、白夜叉だった。
高杉は持っていたお猪口を落とす。銀時もその音に気付き、顔を向けて口を開いて固まった。
なんてところで会うのだと高杉は額に手を当て、盛大にため息をついた。銀時も同様に額に手を当ててため息をついている。こういう反応だけ見ているとこの二人はよく似ている。



「あーあ、会っちまったよ。何でこんなとこにいるかなぁ。普通『たたっ斬る!』って宣言されたら江戸に来なくね?銀さんなら来ないね。嫌がらせでなら行くかもしれないけど」
「うるせぇよ。頼むからゆっくりさせてくれよ。見りゃわかんだろ?今日は何も考えず酒が飲みてぇんだよ。お前と遊んでる暇なんかねぇんだよ」
「俺だってなあ、パチンコですりすぎちまって傷心の心を癒してもらおうと大将のとこまできてんだぜ?癒しを求めてんだよ、血生臭い争いなんて求めてねぇんだよ」
「「………」」



じっと睨み合う二人はいつの間にか手に酒瓶を持ち、グラスを一つずつ持っていた。



「「飲み比べで勝負だッ!!」」



息をピッタリ合わせ叫んだ二人は互いに酒をグラスに並々注ぎ飲み始めた。
それを隣で見ていた万斉は呆れたように笑いながら、ガブガブと酒を水のように飲み出した上司に聞かないだろうが一応声をかけた。



「晋助。ほどほどにするでござるよ」



果たして万斉の声が聞こえているのかどうかわからないが二人の飲み比べは始まったばかりである。








「「おえぇ〜…」」



男が二人、便器に顔を突っ込んで嘔吐を繰り返す。先程飲み比べをしていた銀時と高杉である。
あれから二人は日本酒から外国酒まで様々な酒を飲み、二人同時にトイレへと駆け込んだ。
壁を隔てて隣の便器に顔を突っ込んでいるであろう銀時に高杉は強気に声をかける。



「お前馬鹿じゃねーの?普通吐くまで飲むかぁー?…っ!」
「その台詞バットでそのまま打ち返すぜ。てめぇだって吐くまで飲んだ癖に、…っ!」
「「おげぇぇ」」



吐き続ける二人の声を聞きながら万斉はトイレの扉の前で待ちつつため息をついた。やはり万斉の忠告は高杉の耳に届いていなかったようだ。
嘔吐を繰り返す高杉が心配になった万斉は背中でも摩ってあげるか、とトイレに入ろうとして固まった



「うぅ…吐きにくい…」
「指でも突っ込んで無理矢理吐いちまえよ。あー…胃がキリキリするぅ〜…」



高杉は手を恐る恐る指を突っ込もうとした。が、突然トイレのドアが開き、万斉が珍しく声を荒げて入ってきた。
何事かと高杉と同様に銀時も万斉を見る。



「オイ兄ちゃん…静かにしてくれよ。銀さん今吐いてる途中だから。驚かされたら命中しないでしょ」
「煩い!白夜叉は黙っていろ!晋助、大変でござる!」
「…どうした万斉?」
「しっ真選組が…!!」



万斉の口から思わぬ言葉が飛び出し、高杉は慌ててトイレの扉の間からこっそり店内を盗み見た。
万斉の言うとおり真選組がきていた。しかも真選組の二本柱の土方、沖田がカウンター席についている。
高杉は珍しく動揺しているのか、しきりに視線を泳がせ言葉にならない声を出していた。
銀時も同じように扉の隙間から店内を眺め、あらら〜、とふざけたような声を出した。



「何で真選組が…!」
「そりゃ普通に飲みにきたんじゃねーの?ほら、お酒とおつまみ頼んだ」
「晋助。ここは真選組の行きつけの店だったのでござるか?」
「いや…それは有り得ねぇ。大将からそんな話聞いたことねぇし」



高杉はえらくここの店主のことを信頼しているらしく絶対に有り得ない、と言った。確かにここの店主は元攘夷志士。高杉とも面識があり、何度かここを逃げ場所にしたこともある。その際はいつだって店主は高杉を匿ってくれて尚且つ傷を負っていれば手当てもしてくれるのだ。
そんな店主が今更高杉を裏切るだろうか。いや、裏切らないだろう。
それによく見れば真選組の相手をしている店主はどこか落ち着かない様子だ。彼らが来ることはやはり想定外だったのだろう。



「兎に角ここから出ることでも考えれば?銀さんには関係ないけど」
「今更逃げんのかよ?」
「逃げる?俺がいつ逃げたって?」
「まだ飲み比べは終わってないぜ?」



不敵に笑う高杉に何か言いたげな視線を向けながら銀時は小さくため息をついた。
高杉なりのSOSサインなのだろう、そう判断した銀時は高杉の左目を覆い隠す包帯を解き、次に自分の着物を脱ぎ、高杉に被せた。
きょとん、と過激派テロリストには似つかわしくない瞳を銀時に向ける。



「銀?」
「お前の特徴はその派手な着物と包帯だろ?ならそれを隠しちまえばバレねぇよ」
「そ、うか・・・?」



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