銀魂小説

□いつか
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くいっ、と顔を上げる。
確かにそうだ。こんな綺麗な月に血生臭いものなんて似合わない。
高杉がふ、と笑う。
その笑い顔が綺麗で、俺は暫く見取れていた。

「…?何だ?俺の顔になんか付いてるか?」
「あ、いや…」
「…ヘンな奴」

また、高杉が笑う。
いつもの邪気のある笑い方ではなく、自然と零れた無邪気な笑み。
俺は咄嗟に顔を背けた。
見てはいけない。
見たら、逃げれなくなる。
そんな思いが俺を支配した。

「さてと、俺ぁそろそろ帰るぜ。部下達が探してる頃だろうしな」

高杉が煙管を取り出す。

「探しにって…、お前何も言わずに江戸の街まで来たのか」
「…悪いかよ」
「無用心にも程があるだろ」

高杉が少しふて腐れたような顔をする。
その顔が妙に子供じみていて面白いと思った。
そして少しコイツに興味を持った。
急に話さなくなった俺をいかがわしく思ったのか高杉が眉を潜める。

「副長さん?」
「いや…帰るならさっさと帰れ」

高杉が驚いたように目を見開いた。

「…帰っていいのか?」
「はぁ?帰んだろ?」
「あ、あぁ…?」

珍しく高杉がうろたえる。
真選組の包囲網をモロともせず、何時も微笑を携え、余裕ぶっこいているあの高杉がオロオロとしているのだ。

「高杉?」
「あー見逃してくれんのか…?」

探るように高杉が尋ねる。
その姿は警戒心をあらわにする野良猫のようで可笑しかった。

「フン、捕まえてほしいなら全力で捕まえるが?」
「…いや、帰るぜぇ」

高杉が何とも腑に落ちないような顔をしたが、それを無視した。
高杉がさっと歩き出す。
颯爽と歩く姿を見ながら、俺は高杉の事しか考えられなくなっていた。
そして思った。
いつかアイツを自分のものに。
あの誰にも従わない気品高き野良猫を飼い馴らしたいと。
空を見上げる。
空に浮かぶ月をあの野良猫と重ね合わせ、俺はふ、と笑った。






終わり



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