銀魂小説
□幸か不幸か
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「おぃ、銀八。仕事はどうした」
「別にー?気にしないでー。・・・折角晋ちゃんの為に時間作ってきたけど無駄だったみたいだねぇー・・・」
イジイジと湿ったオーラを放っている銀八に今度は盛大にため息をついて高杉が立ち上がった。
つかつかと隅のほうにいる銀八に近づく。
ゲシッ!!
「痛ッ!!」
「ったく、昔っからお前は俺の邪魔ばっかりしやがって・・・。外に出ろ!」
顎で外に出るように示しながら仁王立ちする。
「し、晋助ッ!追い出す気ィ!?」
女のようにキィーッ!とハンカチを銜えながら乙女座りする銀八に高杉は溜息をついた。
「はぁ〜・・・また子、休憩だ。後は万斉に任せる」
「わかったっス」
高杉はつかつかと診察室の扉を開ける。
そして、見返り美人のように美しく振り向き、銀八に言葉を投げかけた。
「来るなら来い、銀時」
言葉は簡潔だがその言葉を聞き、銀八はさっきまでの落ち込んだ姿は何処へやら、嬉しそうに高杉の後をついて行った。
そして俺は気付いた。
あの医者が銀八のことを『ギントキ』と呼んだことに。
聞きなれないその名前は妙にあのぐうたら教師に似合っていた。
それはもう、何百年も前からその名前が彼の為にあったかのように。
そして、彼の『ギントキ』と言い慣れた声も・・・。
『甘すぎるぜぇ、副長さん』
頭に男の声が響く。
俺は息を呑んだ。
おぼろげな記憶の中にどこか懐かしい男の後姿がちらつく。
赤い着物の、頭に包帯を巻いた黒髪の男がゆっくりと、見返り美人のように美しく振り返る。
『そんなんじゃ、俺を捕まえるこたぁ出来ねぇぜぇ?』
切なそうに呟いた男は先ほどまで俺に手当てをしてくれていた、あの医者だった。
眼帯で隠されていた左目は包帯で覆われている。
そして、彼の陶器のような白い手に握られているものは『刀』だった。
血に濡れた、銀色に輝く見事な『刀』だった。
『・・・まったく、アンタがそんなんだから俺はあの『夜叉』のことを忘れられないんだ』
どこか遠くを見つめながら高杉が呟く。
刀の血を拭いながらその刀身を見つめる。
そして、小さく、俺にぎりぎり聞き取れる程度に彼は囁いた。
『銀時・・・』
「―――――患者さん!」
「!!」
急に呼ばれ、意識が浮上する。
心配そうに看護士が俺を覗き込んでいた。
「大丈夫っスか?具合も悪くなりましたか?」
汗が流れる。
この女も見たことがある。
あの赤い着物の男の傍に付いていた女だ。
そう、確か名前は―――
「―――来島、また子・・・」
「何スか?私の名前っスけど・・・」
俺は飛び出すように病院を出た。
来島は心配そうに引き止めたが、俺はそんなものを気にしている暇はなかった。