リクエスト

□愛を知らない子供に最上級の愛を
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同情なんてものじゃなく、私は純粋にそれを感じていた。

周りに悟られないように気をつけているようだが、彼の心が傷付いているのは隠し切れない事実だろう。
私が気付いたのだから、とっくの昔に弟には気付かれているはずだ。

だから、銀八は私に彼の弁護をするように依頼したのだろう。

心に傷のある子供をむやみやたらに他人に預け、さらに傷口を開かせないように。

残念ながら、私は故意的に彼の傷を素手で触っている状況。
弟の思っているように、無傷で、というのは無理だろう。

いや、それもまた想定の範囲内なのかも知れない。


「私はね、君のことを守りたいと思っているんです。仕事だから、と言ってしまえばそれで終わりかもしれませんが、そうではなく…ただ、君を少年院に容れたくない」

「…?」

「君が罪の意識をしていることは分かっています。ですが、そんな君を少年院には容れて、一体何になるというんですか。本当に罪を償うべきは君じゃなく、君を虐待してきたご両親の方だ」

「…!!アンタ…」

「私が…君の無実を証明してみせます。私の持てる全ての力を使って、絶対にね」


強気な笑みを見せて言えば、高杉君は大層驚いた顔をして私のことを見ていた。

くいっ、と眼鏡を押し上げる。
その為にはまず、高杉君が虐待を受けていたという証拠が必要だ。

頭の中でいくつかの段取りを考えていると、高杉君が震えた声を出す。


「な、んで…何で、アンタ…俺を助けようとするんだよ…?俺みたいな出来損ない…助ける価値もねぇよ…」

「…本気で言ってるんですか?それはお門違いです」

「お門違いはアンタの方だろ?!俺のことなんてどうでもいいだろ!俺はただの親殺しだ!!俺は死んだ方がいいんだっ」

「殺して、ないでしょ?君の心は彼らを助けた。殺すことが出来たはずなのに、君は殺さなかった。でも、君の両親は君の心を殺してしまった」

「…!!」

「世の中には、親の愛を貰えずに生きている子供が沢山います。その子達は『愛』というものを知らない。自分が愛されてるということにさえ、気付けないでいる。…君もそう」

「……」

「少なくとも君は、担任に愛されていますよ。そして、私にもね」

「…意味、わかんねぇよ…」

「今はまだ、わからないかもしれない。でも、いつかきっと、分かる時が来ますよ」


そうにっこり笑って言えば、高杉君は眉を顰めて言葉を紡ぐ。


「アンタにとって俺はただの仕事の相手だろ?なんで、そこまでするんだよ…?」

「そう、ですね…私も何故かは分かりません。敢えて言うなら…顔が好みだったから、でしょうか」

「…は?」

「可愛い顔、してるからだと思います」

「…なっ、テメェ、ふざけてんのか?!」

「ふざけてなんていないですよ?本当のことを言ったまでです」


これは本当。
整った顔をしていて、綺麗というよりも今は幼さの方が前に出ていて可愛く見える。

そんなことを至極真剣な顔で言えば、高杉君は顔を引きつらせ、妙な顔をしていた。

言葉を付けるとすれば、
『本当のことって何だよ。頭イカれてんじゃねぇの?てか、銀八に激似なんだけど』
だろうか。



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