銀魂小説
□気が乗らなくても…
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【気が乗らなくても…】
今日は銀魂高校入学式。校門を新入生が真新しい制服を着てくぐっていく。
その様子を何人かの教師が職員室からほほえましく談笑しながら覗いている。その中に一人気が乗らない教師がいた。
―――坂田銀時である。
彼はこの銀魂高校の国語教師である。やる気ない態度が何故か生徒たちに人気があり、生徒たちは親しみを込めて『銀八』と呼んでいる。
そんな銀時が何故、気が乗らないかというと、銀時は入学式など学校行事が学生時代から大嫌いだったのだ。だったら教師にならなければよかったのだがこれも運命。恩師の松陽先生の助言により教師という道に進んでしまったのだ。
(あー、かったりぃー)
だが、銀時にはもうひとつ気が乗らない理由があった。
(あいつ、マジで入って来んのかな…)
そう、今日からあいつが入学してくるのだ。この銀魂高校に。
(あいつくらい頭良けりゃもっと良いとこ行けただろうに…)
あいつは本当に頭が良い。なんたって一応進学校である銀魂高校をトップの成績で合格するくらいなのだから。
(いや、ここに入学してくるのは非常に嬉しいよ?でも、それとこれとは話は別だ)
銀時は非常に困っていた。
これから年の差のせいで味わうことの出来なかった大好きなあの子との夢の学園生活が始まるのである。むしろ神様に感謝したいくらいのナイスシチュエーションだ。だが、銀時にはどうしてもこれを受け入れられない理由があった。
理由とは――――
「金時!今日から晋坊とヅラが入ってくるのぅ!楽しみじゃ!アッハッハッ!」
――――こいつだ。
「辰馬!テメェ、いい加減人の名前しっかり覚えやがれ!!」
「何言ってるかが!おんしは金時じゃろ?おかしな奴じゃ」
「おかしいのはテメェの頭だ!このモジャモジャがァ!!」
素敵なくらい気持ち良く人の名前を間違えられる奴はこいつ―――坂本辰馬以外そうそういないだろう。
辰馬は銀魂高校の数学教師だ。銀時と同じ日にこの銀魂高校に新任でやって来た。同じ天然パーマという苦しみを味わうもの同士、ということで辰馬は銀時に話し掛け 続けたのだ。その結果、今のような関係になっているのだった。
そして、辰馬は明らかにあの子のことが好き。
「しかし、金時もひどい奴じゃなぁ。なして、晋坊たちが入学してくるのを教えてくれなかったんじゃ!」
「ちょっと、人の話聞いてた?聞いてないよね?銀時だっつうの!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人の後ろにすっと何かが立った。
「坂田先生、ターゲット確認しました。只今、校門を通過し、掲示板へと向かっています」
「おぅ、ご苦労」
「あぁん、坂田先生…///」
この恍惚な表情で銀時を見つめている人物は猿飛あやめという立派な銀魂高校の新入生だ。入学早々、銀時に異様なまでの愛情を注いでいる。
「流石金時!モテるのぅ!」
脳天気に辰馬が銀時に話し掛けたが、そこには既に銀時の姿はなかった。
「坂田先生でしたら瞳をキラメかせながら走って出て行きました」
あっち、と猿飛は開けっ放しの扉を指差す。
辰馬はその扉を苦笑いで見つめた。
銀時は急いでいた。それはいつもの飄々とした態度が嘘のように猛ダッシュで走っていた。
行き先はそう、大好きなあの子の元へ。
「高杉ッ!」
銀時の呼びかけに振り返ったその子を力いっぱい抱きしめた。
これから来る沢山の希望と共に―――
終
2009/04/19 潤