銀魂小説

□会いたい理由と会えない理由
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一通り騒ぎ立てながら歩いていた俺達は、いつの間にか笹と短冊が置かれている場所にたどり着いていた。
何故笹と短冊が置かれているのかと言えば、歌舞伎町内で行われている七夕祭の企画だとババアが言っていた。
そこは意外に賑わっており、若いカップルなどが大勢いた。
チクショー見せ付けやがって。
苛々していると神楽が俺の手を掴み、カップル達を押しのけ笹と短冊が置かれている場所まで猛進する。

「銀ちゃん!早速書くアル!」
「お前なんで今日そんなに張り切ってんの?」
「…!な、何にもないアルっ!ほらっ新八も早く来るネ!」
「はいはい」
「…?」

明らかに動揺した様子の神楽の背中を見ながら、俺は首を傾げたがまぁいいか、と神楽の横に並んで短冊を一枚貰った。
だが、いざ書くとなるとそんなにいい願い事が思い付かない。
ここは無難に『さらさらストレートヘア』か『一生甘味食べ放題』とかにしとくか。
書こうとするとすかさず神楽が俺の手元を覗き見てきた。
俺は短冊の上に手を乗せ隠しながら何?と声を出す。
願い事書いてないけど覗き込まれたら隠しちゃうよね。
何でだろ?

「銀ちゃんの願い事って何アルか?」
「そりゃお前、さらっさらのストレートヘアになることだ」
「無理ヨ銀ちゃん。その頭はもう手遅れネ」
「テメッ人の頭を末期患者みたく言うなッ!」
「それよりもっと夢のあるものにするよろし」
「夢のあるものって…」
「例えば私ならお腹一杯卵かけご飯食べたいとか」
「いやっ夢それ!?結構安上がりだなぁオイ!」
「銀ちゃんの足の臭いをフローラルにしてとか」
「神楽ちゃん、それ完全に夢じゃないよね。銀さん虐めはじめちゃったよね」

なおも自分の夢を語る神楽を無視し、俺はペンを片手に考える。
確かに自分の願いには夢がないのかもしれない。
いや願望は物凄く篭ってるんだけどね?
誰よりも叶えたいと思う気持ちは強いと思うけどね?

「ん〜…願い事ねぇ」

俺は晴天の青い空を見上げ考えふける。
後はあれか、金欲しいとか?
ある意味夢のねぇ願いだけど。
ほか、他ねぇ…。

「ねぇねぇやっちゃん!何書いたのぉ?」
「ちょっ見んな!」
「いいじゃない〜!」

隣にいたカップルが露骨にいちゃつきだし、いらつく。
俺が眉間にシワを寄せながら、二人を見ると女の方が無理矢理にでも男の短冊を見ようと手を伸ばしているところだった。

「マジ止めろって!あっ」
「へっへーん♪やっちゃんのお願い事見ちゃえ!」
「おっおいっ」
「えーと何々ィ?『お藤と何時までも一緒にいれますように』…って、いっちゃん!!」
「お藤っ!!」
「(うわぁ…コイツらマジでうぜぇ…)」

ベタな愛の劇場を見せられ、砂を穿きそうになった。
つか、いつまで抱き合ってんだテメェら!
俺はバカップルのウザさに耐え兼ね、二人を蹴り飛ばし、また考え込む。
もういっそ、地球上のバカップル消滅しろとか書いとくかぁ?

「ったく、もう何か苛々するっ!何で人がいちゃついてんの見なきゃなんねぇんだよ!こっちとらぁ、会えなくて晋ちゃん不足だってのに…って、あ」

あるじゃねぇか、叶えて欲しい願い事。
何で今まで気付かなかったんだ。
俺は迷うことなく紙の上にペンを走らせた。

「銀ちゃん?まだ書いてないアルか?」
「…っと、書いた」
「じゃあ笹に括り付けましょうか」
「銀ちゃん!私の短冊一番上に付けてヨ!」
「あー?どこに付けても一緒だろ?」
「一緒じゃないネ!彦星様も織姫様も一番近いところから叶えるはずヨ!」

早くっ、とせかす神楽から短冊を受け取り、手を伸ばした。
だが、思いのほか背の高い笹だった為、なかなか一番上まで、とはいかない。

「神楽。銀さんの身長じゃ無理だわ。とどかねぇ」
「えー!今こそ銀ちゃんの能力が問われる場面アル!ゴムゴムの・・・むぐっ!」
「止めて神楽ちゃん!!いろいろ引っかかるから!!」
「何ヨ?同じジャンプネ。何を臆することがあるネ?」
「そういう問題じゃないから!あっ、銀さんが神楽ちゃんを肩車すれば届くんじゃないんですかっ?」
「マジアルか!銀ちゃんしゃがむネっ」

ズガンッと頭を思い切り地面にのめり込ませられる。
コイツぜってぇ自分の力が強いこと無自覚だ・・・!!
頭から血を垂れ流したまま俺は神楽を肩車する。
ヤバイくらいフラフラするがヘッドをホールドされている今の状況で文句を言うのは命取りだ。
ここは素直に従うのが得策だ、と俺はちらりと目だけで神楽を仰ぎ見る。

「神楽ー。届くかぁ?」
「もうちょい前ー・・・と、そこアル!」

体重のかかり具合で神楽が手を伸ばして短冊を括り付け様としているのが分かる。

「んー・・・と!つけたアルっ」
「じゃあ下ろす・・・」
「待つネ!銀ちゃんの短冊も寄越すアル」
「はぁ?何で」
「肩車してくれたお礼ネ。私の次に願いを叶える権利をあげるヨ」
「偉そうだね、神楽ちゃん」
「女王様とお呼び!」
「OK、デストロイクイーン」

短冊を奪われ、神楽の短冊の隣に吊るされる。
神楽は満足げに笑い、俺の上から降りた。
ざわっ、と風が吹き短冊を揺らす。

「叶うといいネ、銀ちゃん」
「・・・そうだな」

忘れ去られた新八が悲しげに笹に自分の短冊を吊るしているのを横目に見ながら、俺は神楽の言葉に小さく笑った。



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