銀魂小説

□会いたい理由と会えない理由
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その後、七夕祭りがあるから、と言って新八と神楽は提灯が吊るされている神社の境内へと消えていった。
俺はと言えば、一人万事屋で月見酒でもと一人、月明かりに照らされた道を歩いていた。
涼しい風が俺の好き勝手はねている銀髪を揺らす。
穏やかな時間と共に口元に笑みを浮かべ歩く。
騒がしいばかりの江戸の町だが、こんな静かな時間だってある。
俺はほんの少しここにはいない恋人のことを考え、笑みを消した。

あぁ、どうしてアイツはいつだって俺のことを後回しにするのだろうか。
愛してくれていないのではないか。

そんな思いがぽつり、ぽつりと浮かぶ。
いつだってアイツは先生優先で、先生が頼み事をすれば俺との約束を破ってでも先生の頼みを聞き入れる。
だから、今のアイツにとっての最優先事項は先生を見殺しにした『この世界をぶっ壊す』こと。
今日のテロだって、先生のことを思って作戦を立てたはず。

そこで俺はふと辺りを見渡す。
やけに静かな時間。
そこは高杉が騒ぎを起こしているのなら有り得ない程、静かだった。

「どういうことだ・・・?」

考えてもみればおかしいことこの上ない。
テロが起こっているのなら聞こえるであろう爆発音も、真選組が運転するパトカーのサイレンも聞こえない。

「まだ、起こしてねぇのか?」

首を傾げ、俺はニュースを見ようと急いで万事屋へ向かう。
走りながら俺の胸に不安が募っていく。
どうして、なんで、と疑問ばかりが浮かぶ。

「(まさか・・・騙された・・・?)」

そう思った瞬間、俺の胸が誰かに鷲掴みにされたのではと思うほど締め付けられた。
どうして嘘をつく必要があった?
俺は兎に角必死に足を動かし前へ進んだ。
向かい風が吹こうが気にしてられない。
息を切らしながら全力疾走で走っていたが、ぴたり、と足を止めた。
クンと向かい風から香る匂いを嗅ぎ、目を見開いた。
どういうわけか、向かい風から7月に香ることのない、梅の花の匂いがしたのだ。
匂いのした方を向けば、闇夜に浮かぶ美しい月。
それが『万事屋銀ちゃん』と書かれた看板に身体を預けるようにして顔を覗かせていた。
月が声をかけてきた。

「よぉ。そんなに急いでどうしたんだぁ?」
「・・・・・・ぁ」
「くくっ、汗びっしょりじゃねぇか」

面白ぇ、と笑う月が優雅な動きで階段を降りて、息を切らせている俺の前までやってくる。
口元に妖艶な笑みを浮かべて。
俺は目を見開いたまま、口を開いた。

「・・・な、んで・・・」
「テロのことか?・・・あのチャイナ服の嬢ちゃんに感謝しなぁ」
「え」
「月見酒、すんだろ」

早く酒ぇ飲ませろ、と高杉が俺の手を掴み歩き出す。
いまいち頭の整理のきかない俺は何で神楽?と思いながら、高杉に連れられるようにして万事屋の前まで歩いた。
俺は慌てて高杉を止める。

「ちょっ、何でっ!テロはどうした!?てか、神楽に感謝ってどういう・・・」
「お前が願ったんだろ?」
「―――は」
「短冊に、書いたんだろ?俺に会いたいって」
「なっ何で知って・・・!」
「“織姫”からのお告げ?」
「・・・なんだそりゃ」

呆けたように呟けば、高杉がケラケラと子供のように笑う。
俺は諦めたようにため息をついて高杉の肩を抱いた。

「銀時?」
「恋人なんだからさ、行事くらい恋人らしく一緒に過ごしたい・・・」
「無理なこと言うな。今日だって無理してお前のところに来たんだぜ?」
「だから、1時間でも1分でもいいから・・・恋人らしくイベント過ごしてよ」

高杉の肩に置いた手を頭に回し、抱き寄せる。
晴天だった昼をそのまま、雲ひとつない空に星が無数に浮かぶ。
高杉はしばらく無言だったが、俺の着物の袖を掴んで引っ張る。
顔を向ければ高杉が上目遣いで見つめてきた。
その頬はほんの少し赤い。

「俺だって、銀時と過ごしてぇよ。・・・恋人らしくしたい・・・し」

ゴニョゴニョとはぐらかして呟く高杉が可愛すぎて俺はギュッと抱き締めた。
何だろうね、この可愛い生き物は!

「かーいいね〜〜!もうさっ、恋人らしくキスしとくっ?」

へらり、と笑っていうと高杉が俺の腕の中で少し考え、瞳を閉じた。
その行動に俺は驚いた。
とうとう晋ちゃんにデレ期が到来したらしい。
俺は嬉しくなって思いっきり愛情の篭ったキスを送った。


ゆらゆらと短冊が二つ闇夜で揺れる。
一つには、

『銀ちゃんの願い事が叶いますように』

と。
もう一つには、

『愛する晋助に会えますように』

と、書かれてあった。




終わり



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