俺+弟=1?(連載)

□5.変なの
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もしかしたらここが全ての始まりだったのかもしれない。


第5話
【変なの】



ジュウジュウと聞こえてくる音に銀時は目を覚ました。
ぼー、とベッドの上で無駄に時間を過ごしていると、ほんの少し開いている部屋の扉の隙間から甘い匂いが漂う。
それに漸く意識が覚醒した銀時はガバリと起き上がり、急いで服を着替え始めた。

速攻で着替えた銀時は顔を洗うのも忘れて一階のダイニングキッチンへと向かう。
急ぎ過ぎて途中階段から転げ落ちそうになったが、何とか踏みとどまり一階へ降りる。
ドタドタと朝日の入るそこへ向かえば、銀時に気づいた双子の弟が呆れ気味に声をかける。

「銀・・・もう少し静かに出来ねぇのかよ?」
「うっせぇなぁ・・・それよりメシ!今日何?」
「うるせぇのはテメェの方だ・・・フレンチトーストとスクランブルエッグ。あとイチゴミルク」
「よっしゃ!俺の好きなもんばっかり!早く早く♪」
「その前に顔洗って来いよ。酷いことなってんぞ、特に頭が」
「ちょっ!気にしてることさらって言わないでくれる?!うわー銀さんショックで動けなくなりましたぁ。魔法の呪文を唱えないと銀さんここから一歩も動きませんっ」
「・・・イチゴヨーグルト付けてやる」
「さーて、顔洗ってこようかなぁ〜〜♪」

双子の弟――晋助の追加メニューに銀時は機嫌を良くし、急いで顔を洗いにいく。
そんな双子の兄を見ながら晋助は呆れながらも笑みを浮かべた。

二人は正真正銘の双子である。
だが、似ているところはほとんどない。
容姿なんて一つも似ているところがない。
兄は銀髪の天然パーマで真紅の目は死んだ魚のように濁っている。身長はそれなりに高く、無駄な筋肉がついていない逞しい体つきをしている。
一方弟は黒髪のストレートで深緑の目は釣りあがっている。身長は銀時と比べるとかなり低く、華奢なイメージを湧かせる。
傍から見れば、二人はただの友達といった風に見えた。

ウキウキと鼻歌交じりに洗面所から戻ってきた銀時は自分の席に付きながら晋助に声をかける。

「フレンチフレンチ♪晋ちゃんの作るフレンチトーストは銀さん好みで大好きよ」
「そりゃどうも」

それにそっけなく答える晋助だが、内心では嬉しく思っていることを銀時は知っている為、大してその対応に文句を言わない。
ことん、とテーブルにパンとスクランブルエッグの乗ったお皿とピンクの液体の入ったコップ、それから追加で用意されたヨーグルトが置かれていく。
置かれるにしたがって銀時の目がキラキラと煌き、その目が子供のようで晋助はくすっ、と笑った。
兄のこのような目が嫌いではない晋助は少し嬉しくなりながらヨーグルトに苺を乗せてやる。
それにさらに目を輝かせた銀時に晋助は声をかける。

「今日、銀魂高校行くから」
「え?何で?はむっ・・・ふぇんか?」
「あ?何つった?つか、食いながら喋るな」
「うぐっ・・・ふぅ・・・喧嘩?」
「喧嘩なんてしねぇよ。ちょっと用事」
「用事ィ?進学校に通う晋助君がうちみたいなおバカ学校に何の用があるってんだよ?」
「んー。バンドに誘われたんだよな、俺」
「バンドぉ?」

弟の口からバンドという言葉が飛び出すとは思ってもいなかった銀時は露骨に驚いた顔をした。
銀魂高校の生徒と関わりがあったことにも驚いたのだが、バンドともなるとますます疑問でならなくなる。
説明しろ、と目で訴えれば少し考えた晋助がしぶしぶ口を開く。

「・・・男女4人ずつでカラオケ行って、そこにいた銀魂高校の奴に誘われた」
「へぇ〜って、それって合コンですよね?合同コンパ」
「うっ・・・そ、そうともいう」
「へぇ〜、晋ちゃんはお兄ちゃんに内緒でそんなことやってたんだぁ?不良はやめたって言ってなかったぁ?」
「騙されたんだよッ!それと合コンは不良がやることじゃねぇし。誰だってやってるだろ?」
「そう、誰だってやることだ。という訳で、今度から誘われたら俺にも言え。代わりに行ってあげるから」
「・・・そりゃテメェが行きてぇだけだろ」
「そうともいう」

ぬけぬけと言う兄に呆れ、機会があればな、とだけ晋助は言った。
銀時は絶対だからな、と念を押しながらイチゴミルクを飲み干し、おかわりとコップを差し出す。
それを当然のように受け取った晋助は面倒くさそうに冷蔵庫へ行き、ピンク色の液体を並々と注ぐ。
そんな姿を見ながら銀時は口を開く。

「結局やるの?バンド」
「・・・決めてない、けど・・・今日中に決める」
「そっか。今日返事しにうちの学校来るわけだからね」
「そういうこと」

ふぅん、とやる気のない空気を口から吐き出しながら銀時はイチゴミルクを受け取る。
一口飲み、銀時は自分の思ったことを口にする。

「俺はやっていいと思うけどね」
「え?」
「だって晋助、高校入ってから部活もやってないし。勉強ばかりじゃあキツイんじゃね?」
「・・・べ、つに」

目を伏せ、呟くように口を開いた晋助に銀時は笑みを浮かべ、本音を吐き出した。
それがどんな事件を引き起こすかも知らぬままに。

「っていうのは建前で、バンドってモテるじゃん?余った女の子をこっちに回して欲しいんだよねぇ〜」
「・・・は?」
「だからぁ、バンドしてたら嫌でも女の子寄ってくるじゃん!晋助の手で追いつかなくなったら俺にその子紹介してよ!」
「・・・・・・」
「あ、出来ればこう・・・ボンッキュッボーン!のお姉さんをよろしくねっ」

星でも飛びそうなほどのウィンクをし、銀時は親指を立てると同時にガタッと何かが倒れる音がし、銀時は肩を揺らし驚いた。
見れば晋助が立ち上がり、椅子が悲しく横たわっていた。
銀時は俯いている晋助に声をかける。
纏う雰囲気が尋常でないほど恐ろしい。

「し、晋助・・・?」
「・・・・・・」
「し、晋ちゃーん・・・?」
「・・・俺、今日早いから」

学生鞄を無造作に掴み玄関へと向かう晋助を銀時は目をぱちくりさせながら見つめる。
ぱたん、と音がし、家に一人残された銀時は瞬きを何度かして頭を掻いた。

「何なのアイツ・・・」



俺には出来のいい双子の弟がいます。
しかし、最近なんだか反抗期気味です。
同じ年なのにね。







2010/11/02 潤

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