銀魂小説

□clock mad
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【clock mad】

どーん、と遠くで音が鳴る。

『あぁ、花火始まったのか』

と、俺は息を荒く吐いている高杉から目を逸らし、窓に目を向ける。
花火の所為で薄っすらと明るい外を見て、

『やっぱり』

と、確信する。

祭りを満喫していたコイツを見つけて、無理矢理万事屋へと連れてきたのは夕方のこと。
その時一緒にいた新八や神楽をお妙に預け、俺達は早々にその場を後にした。
だってそうだろ。
恋人同士の逢瀬に子供はいらねぇよ。
てか、今の高杉の姿はアイツらにゃ刺激的過ぎだろ。

「ぎん・・・?」

俺の下から不安そうな声が聞こえた。
外を見て動かない俺に不安を覚えたようだ。
見れば俺を見つめる瞳が切なそうに揺れている。
俺はそんな高杉の頭を撫でてやり、外を指差す。

「花火、始まったみたいだぜ?」
「・・・あぁ、そうみたいだな」

高杉がどこかほっとしたような声を出す。
意識が向いたのが花火だったことに安心したようだ。
昔じゃ考えられない変化に、俺はちょっと嬉しくなって額に口付けを落とした。
それをくすぐったそうにしながらも受け入れる高杉。

『ホント、成長したね』

と、俺はいそいそと高杉の足を開かせようとした。
すると高杉の手が俺の顔の前で固定される。
何かと思い、その小さくて綺麗な手を見て首を傾げる。
またどーん、と花火が上がった。

「花火見たい」
「えー・・・銀さんの息子臨戦態勢入ってるんだけど」
「花火」

頑として譲らない目をしている高杉に負け、俺は脱ぎ散らかした着物を羽織、窓の脇に座る。
高杉も同じように着物を羽織ろうとしていたのでストップをかけた。

「着物要らないからこっちおいで」
「夏だからってさみぃよ」
「銀さんが温めてあげるから」

不満そうな顔をしている高杉の腕を掴み、俺の足の間に座らせ、後ろから包むように抱きしめた。
高杉の汗と梅の香りが鼻腔をくすぐる。

『なんて甘い匂いなんだろ』

高杉の頭に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
時折くすぐったそうに身体を動かす高杉だが止めろとは言わない。
ただ一心に空に上がっては散っていく花を見つめている。
花火を映す隻眼が子供の瞳のようにキラキラと輝いていて、俺は少し切なくなる。
松陽先生が居た頃はいつだってキラキラと瞳を輝かせていた高杉。
手を一生懸命伸ばし、全身で喜びを表現していた。

いつからだろう。
彼の瞳が狂気に彩られたのは。
いつからだろう。
彼が純粋な笑みを浮かべなくなったのは。

そんなの分かりきっている。
あの人が、居なくなってから。
高杉の歯車が少しずつ、少しずつ狂っていった。
時計が、ずれた。
同じ時間を示していたはずの俺達の時計が、高杉の時計だけ、遅く、ゆっくりと刻みだした。
きっと今もまだ、高杉の時計は時を刻むことを躊躇いながらも動き続けている。
止めることなど出来ない時計を無理矢理止めようと必死にもがいて。

『あぁ・・・なんて可哀相な高杉・・・』

目を細め、小さな高杉の肩を見つめる。
この肩に一体どれだけの重荷を背負っているのだろうか。
その肩に乗せた荷物を高杉は今も、ひとつ、またひとつと背負い続けている。
潰れることも意図まずに。
それを望んでいるかのように。

どーん、と盛大に音を立てて花火が散った。
たぶん最後だったのだろう、今までで一番大きく花を開かせていた。
ぱらぱらと火花が飛び散り、消えてゆく。
高杉が小さく声を上げた。
その声と瞳に羨望の思いを含ませて。

「・・・せんせ・・・」

震えるその声から、

『お前も同じように散って、先生の元へ逝きたいのか』

と、高杉の心を読む。
それほど、先ほどの声とセリフには羨望と切なさが混ざっていた。
高杉の腕が動く。
俺は慌てて腕ごと高杉の身体を抱き込んだ。
高杉が驚いたように一旦動きを止め、こちらを振り向いた。

「ぎんとき?」
「ダメだよ、晋ちゃん。手を伸ばしちゃ」
「・・・なに」
「まだ、そっちにいっちゃダメだからね」



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