リクエスト

□ある日の午後
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つーん、と高杉の頬を指で軽く突く。
ぷに、とした感触に若いっていいなぁ、と年寄りくさいことを思う。


いや、そんなに年変わんないからね?
ただ、コイツの肌がぴちぴち過ぎるだけだから、うん。


ぷにぷに、としつこく触っているとがしっ、と腕を掴まれた。


「?!」


起きてしまったのかと慌てる。
この状況を高杉に見られたらどんな修羅場になるかわかったものではない。
俺は出来るだけ気配を消す。
そう、例えば桂の部屋に置いてあるよく分からない人形のような存在になることに徹した。
その甲斐あってか、ん〜、と鼻にかかる息を出しただけで高杉は起きなかった。
俺はほっ、と胸を撫で下ろしながら掴まれた腕を静かに高杉の手から放そうと手を動かした。
しかし、そう簡単に放してくれなくて、これが寝てない時だったらどれだけ嬉しいことか、と悲しい現実に少し涙を流した。


くそぅ、子猫ちゃんめッ!
こんな時だけ放さないってどういうことだよ!
それを布団の中でしてもらいたいもんだねッ!


心の中で悪態をつきながら、俺は高杉の指を1本1本丁寧に俺の腕から剥がしていく。
ラスト1本、と指を動かしていれば、再び腕をつかまれ、そのまま高杉の方へと引かれてしまった。
俺は咄嗟に高杉に体重がかからないよう片手で自分を支える。
そんな自分を褒めてやりたい、と思いながら高杉に被さるような体勢だということに気が付いた。


ちょっ、何このおいしい体勢!!
襲えってか!
襲って欲しいのかァ!!


一人パニックになっていると、高杉がう〜ん、と口を動かす。


しまった!
もしかして起きた?!
やばいって!
誤解されるってェ!!


俺は動けない体勢だった為、逃れるすべを持たず、せめて痛みだけでも逃れようと目を、瞑り歯を食いしばった。


来るなら来い!
晋ちゃんの愛の鉄槌ならいくらでも受けるッ!


なんとも男らしいんだ、と自分自身を褒めながら痛みの来るのを待つ。
だが、いくら待てども痛みは来ず、俺はゆっくり目を開けた。
そこには先ほどと何の変わりもなく幼い顔で眠っている高杉がいて、俺はほっ、と息をついた。


ちゅ


―――え?


軽いリップ音に俺は驚く。
見れば目の前に大好きなあの子の顔。
しっかりと俺の首に絡められた腕に引き寄せられるまま、また、軽い音が響く。
何回かキスをした後、俺はぼー、としたまま高杉を見ていた。
彼は未だ、目を瞑ったままなのだが・・・


って、コイツ寝てるしッ


寝ぼけたままなされたキスに俺はがっくり、と項垂れる。


何コイツ!
寝てる時だけ甘えたがりってどうよ?
まさか俺以外にもやってたりしないだろうなァ?!


うがうが、考えているとまた、高杉がう〜ん、と唸る。
そして・・・


「ぎん・・・と、きぃ・・・」


と、可愛らしく俺を呼ぶ。
愛おしそうに、甘くとろけた声。
事情の中、時折囁く俺を呼ぶ声と同じ声質。
かぁっ、と勢いよく顔が赤くなる。
恥ずかしすぎて高杉の顔がまともに見れない。
俺は気持ちを紛らわせる為、何度か顔を擦る。


何なのコイツ。
ねぇ、何なの?!
マジ恥ずかしいんですけどッ!
本気で恥ずかしいんですけどォ!!


はぁ〜、と息を吐きながら高杉に覆いかぶさる。


もう、高杉が何て言おうが関係ない!
俺も寝るッ!
コイツが誘ってきたんだもん!
知ったこっちゃないね!


開き直ったが勝ちといわんばかりに俺は目を閉じる。
息をする度に高杉から梅の匂いが香る。
あ〜、もう梅が咲き始める時期だな、と感傷に浸りながら俺は暖かな日差しの中、愛しい彼を抱き締め眠りについた。




その後、目を覚ました高杉によって俺の眠りが妨げられ、挙句の果てには頭に大きなたんこぶが出来たことは言うまでもない。





終わり
(次→あとがき)



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