リクエスト

□愛を知らない子供に最上級の愛を
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兎にも角にも、彼が何か言ってくれなくては話が平行線を辿るばかりとなる。
私は仕方なく挑発的な言葉で彼の心をかき乱すことに決めた。


「…君は本当に説教をされただけで、両親を刺したりしたんですか?」

「ムシャクシャしてたんだ。それに、最近ウザかったんだ…丁度いいだろ」

「嘘ですね。君は、そんなことで人を刺すような人間ではない」

「…は?」

「何か他に理由があるんではないんですか?例えば…虐待」

「…!!」


高杉君が驚いたように私の顔を見た。
驚いた顔は本当に年相応で、ほんの少し彼の本当の姿を垣間見た気がした。

私は更に彼に言葉を浴びせかける。


「君の身体のあちこちに傷があったそうです。ただの怪我ではなく、故意的に付けられた、そんな傷が」

「…喧嘩したんだ、この間」

「その割には顔に傷がついていませんね?あぁ、イジメられたりしたのかな?」

「はっ!俺がイジメられる?ありえねぇ、誰も俺に近づきもしねぇよ」

「じゃあ、どうして顔に傷が付かないんですか?虐待を受けている子供の殆どが、隠れて見えない部分を集中的に痛めつけられている。例えば…腕とか」

「っ!」

「腕…見せてもらえますか?」


優しく問えば、高杉君は傷付いたような顔をして、私のことを見つめていた。
その手は必死に腕を庇う様に抱きこまれていて、口は断固として喋らないと閉じられている。

私は純粋な目をした子供を見つめたまま、分かりきったことを口にする。

子供なら、誰もが守ろうとするものにそっと手をかけた。


「君は、必死に守ろうとしているんですね。自分を傷つける者を…」

「……」

「当然といえば当然でしょう。…どんなに蔑ろにされようとも、親は子にとって世界の全てだ。恨むことができない。見捨てることができない」

「違ぇ…あんな奴らどうとも思ってない。死んでないのが残念だ」

「それでも君は今、そのどうとも思っていない両親を庇っているのでしょ?」

「だからっ」

「君はこのままいったら、確実に少年院に容れられるでしょう。そして、君のご両親は君がいないことに何の疑問も抱かずに日々を過ごしていく」

「…それがどうした。いいんだよ、俺のことは!俺はイラついてアイツらを刺した!!ただそれだけだ!!」


鋭い眼光で睨みつけてくる野良猫が哀れで仕方なかった。
自分を傷つける者を必死で守る彼がどうしようもないくらい愛おしく思う。
その無償の愛を自分に向けてくれないかと考えてしまう私はなんともおかしい。


「…君はご両親の事を愛しているんですね」

「さっきっから意味わかんねぇことばっかり言いやがって…俺がアイツらを愛してる?バカなことぬかすなよ。俺はアイツらが大っ嫌いだ」

「腐っても親、とはよく言ったものです。どんなに酷く、腐っていても子にとっては親なんですよ」

「……」

「ですが…君が守ろうとしている親は、どうしようもないくらいのクズだ。君に守られる価値もない」

「!!…テメェ、一体何なんだよ!!勝手なことベラベラ喋りやがって!」

「…どうして君がこんなにもご両親を愛しているのに、それが伝わらないんだろうね」



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