リクエスト

□喧嘩したって
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「おら〜、テメェら席に着け〜。授業はじめっぞ」

いつも通り、やる気のない声を出しながら教室に入る。
目に行くのはやっぱり彼の席。
サボっているらしい彼の空いている席を見て、周りにバレない様にため息をついた。
俺の授業をサボっている高杉を今日は一度も見ていない。

「(アイツめ・・・意地でも俺と顔合わせるつもりねぇな・・・)」
「せんせ〜」
「(ったく・・・これじゃあ、仲直りも出来やしねぇ)・・・ん?何だぁ?」
「高杉君はどうしたんですかー?」
「あー?それを先生に聞くんですか?知らねぇよ、不良の考えるこたぁ」
「不良教師のアンタが言えた義理か」
「先生に向かってなんてこと言いやがるんだ、コノヤロー」
「兎に角早く仲直りしてくださーい」
「「「してくださーい」」」
「何で皆知ってるわけェ?!」

別に隠しているつもりもなかったが、知られているつもりもなかった俺は、かなり驚いた。
沖田といい、クラスの奴といい、どうしてこうも教師の私生活を知っているのだろうか。

なんだ、盗聴器とか仕込まれてんの?
先生、すごく不安になってきたんですけど・・・

「先生!盗聴器とか付けなくても、二人を見てればわかります」
「ちょっ、エスパー?!お前、いつの間に人の心を読むことを覚えたの?!」
「そんなことより、高杉が可哀想です。今のアイツを見てられません」
「え?・・・そういや、沖田もそんなこと言ってたな?俺、今日アイツ一回も見てねぇんだよ」

土方の言葉に、今しがた言われた沖田の言葉を思い出す。
沖田は高杉の様子を「暗い」と表現していた。
そして、土方は「可哀想」と。

つまり、アイツ俺と喧嘩したことを後悔してる・・・?

ちょっとした事実に妙に嬉しくなる。
俺のことを避けている高杉が俺と喧嘩した所為で落ち込んだりしているわけで。
それって、本当は仲直りしたいってことなんじゃないかと思う。
ニヤニヤと隠れて笑っていると、それを目敏く見つけた沖田が口を開く。

「銀八ィ。俺ぇ一個言い忘れてやしたぁ」
「う・・・え?何を?」
「俺らとメシ食ってる時何ですがね。俺がたまたま購買部でアイス買って来てて、それ見た瞬間、凄かったですぜィ」
「え?何々??まさか、俺のこと思い出して泣いたとか?(え?めっちゃ嬉しいんだけど)」
「いやぁ・・・アレは、凄過ぎでしたねィ」

「何たって、怒りに我を忘れた高杉さんが教室半壊にしちまったんですから」

「え・・・?」

き、教室半壊ってどういうこと?

俺はその時、漸く教室の異変に気付いた。
壁やら窓やらにひびが入り、前よりも年季の入った教室へと変貌していた。
というか、台風か何かが通り過ぎたような有様だった。

あ、高杉の机しか見てなかったから気付かなかった・・・

「アンタ・・・気付かなかったんですかぃ?それでも担任か」
「うっせぇ・・・俺の目には何時だって高杉しか映ってねぇんだよ!!」
「それを高杉の前で言ってやれよ!そうすりゃ、万事巧くいく!」
「んな事言われたってなぁ、高杉が逃げるから会えたもんじゃねぇんだよ!!」
「アンタが探さないのが悪いんだろォ?!」
「マヨ方の言うとおりヨ!先生ィ、私の国では逃げる猫は取り敢えず後ろから抱き締めろっていう格言があるネ!」
「そりゃ、どんな格言だ!・・・兎に角、これは俺とアイツの問題なの!お前らは口出しすんな。わかったな?」
「えー・・・でも」
「うるせぇよ、テメェら。わかったらさっさと授業始めんぞ」

不服そうに教室がざわついていたが、元々聞く気がない俺は無視して授業を進める。
と言っても、別に授業という授業はしない。
ジャンプしか持って来てないし。

「先生!授業するならちゃんとしてください!!」
「うっせぇなぁ、もう!!今日はジャンプしか持ってきてねぇんだよッ!何だぁ?!NARUTOとか朗読してほしいのかテメェら!!」
「何でジャンプしか持ってきてないんですか!あ、でも気になるんでお願いしますッ」
「“何で俺の中に九尾を眠らせたんだってばよ!!”“ナルト・・・”」
「ホントに朗読しだしたよ、あのダメ教師・・・しかも先週辺りのやつだし・・・」

あー・・・
やる気出ねぇ・・・
新八のツッコミも聞えねぇよ、この際。

「・・・はぁ・・・何であんなことで怒っちゃったんだろ・・・」

俺の言葉はむなしく教室の中に消えていった。





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