リクエスト

□登校風景
1ページ/3ページ

俺の周りはいつだって騒がしい。



【登校風景】



毎朝8時半少し前、俺は登校時間ギリギリに学校に着く。
3年になってから休まず学校に行っている自分が不思議でならない。
サボりまくっていた俺にとって、こうやって朝から学校へ行く概念はどこにもなかった。
にも関わらず、あの担任のせいでおかしくなってしまったのだろう、こうやって柄にもなく遅刻せずに学校に通っているのは。
だが、それが嫌だと思わないのはきっと――



「おはよう、晋助」
「おはよーごぜーます、高杉さん」
「土方…それに沖田か。おはよ…」



考え事を中断させ、声の掛かった方を向けば竹刀の入った袋を肩にかけた土方とイヤフォンを耳から垂らして片手を上げている沖田がいた。
足を止め、俺も軽く挨拶をして二人と一緒に通学路を歩く。
こうやって同じ学校の奴と登校するのも高校に入ってから初めてのことだった。
変わったな、と思いながら昨日のテレビ番組の話などたわいもない話をしながら笑い合う。

昔じゃ考えられなかった。
一匹狼だった俺にこうやって笑い合える友達が出来るなんて。

そのことに苦笑を浮かべていると沖田が『そうだ』と何かを思い出したように懐からチケットのようなものを出して俺に見せた。



「高杉さん、今話題のアミューズメントパークのペアチケットでさぁ。一緒に行きませんかィ?プールもありますぜィ」
「へぇ、プールか」



沖田の話に興味を示していると土方が俺の腕を掴み、『実はさ』と鞄からチケットを取り出して見せてきた。



「遊園地の一日フリーパス、2枚持ってんだけど…行かねぇか?」
「遊園地?」
「あのネズミのキャラクターの」
「…!!」



実は隠れ可愛い物好きの俺は某夢の国のネズミさんが大好きなのだ。
土方の持っている紙は言わば、夢の国へと向かう始発チケット。
俺はプルプルと手を震わせながら見つめる。



「どうだ?行きたいだろ?」
「いっ行きたいっ」
「なら俺と一緒に・・・」
「なーに言ってんですかィ。高杉さん、知らないんですかィ?こっちにもすっごく可愛いイメージキャラクターがいるんですよ?ほら、見て下せぃ」



そうやってチケットに描かれている絵を見せられ、俺は胸を押さえた。
ネコをイメージした可愛らしいデザインのそれに俺は胸を貫かれた。



「可愛すぎだろおおおおぉぉ!!」
「お前がな」
「だってほらッ!このユルキャラ特有の離れた小さな目ッ!夏バテしたのかわかんねぇけどこのだらけた格好ッ!!かーわーいーいー!!」
「お前がな」



俺は土方の胸倉を掴み、ガクガクと揺らしながら熱弁する。

だってほらっ、可愛すぎんじゃん!
可愛い物好きの俺にとってはツボなんだよ、こういうユルキャラとかディズニー系とかっ!!

ハァハァとしていると肩をポンポンと叩かれ、俺はそちらを振り向いた。
ピシッと固まる。
ピンクの髪にワザとらしいほどの笑みを貼り付けた悪魔、基神威がご自慢の笑顔を引っさげて俺の背後に立っていたのだ。

つか、全然気配感じなかった・・・!!

軽くショックを受けている俺を無視して神威は『早上好♪』と中国語で流暢に朝の挨拶をしてきた。



「・・・おはよ」
「あはは、そんなに怖がらないでよ。何だか野良猫さんみたいで可愛いけどさ」
「〜〜〜ッ!!」



神威の言葉に鳥肌を立てていると土方と沖田が俺を庇うように神威の前に立ちふさがる。
そんな二人を見て、神威はきょとん、とした顔をしたがすぐに理解したらしく、留学生とは思えないほど上手に日本語を紡ぎ出す。



「俺ってそんなに危険かな?普通にしてるつもりなんだけど」
「普通の奴は、んな殺気出さねぇよ」
「見なせぇよ。高杉さんがあんなに怯えて・・・可愛いったらねぇなぁ」
「全く同感だな」
「そうだネ」



カッコよく前に出た二人だったが、いつも通りのふざけた言葉の応酬に俺は『ちょっと』と土方と沖田のカッターシャツを掴んで引っ張る。
二人は『何かおかしなこと言ったか?』といった目で俺を見てくる。

なに?俺が変なの?

男友達ってこんな可愛いとか平気で言ってくるものなのかと考える。
女は割かし相手を可愛いと評価したがるし、その場面を何度が見たことはあるが、流石に男同士でというのは気持ち悪いと思う。
だって男だし。
可愛いよりカッコいいといってもらった方が数百倍嬉しいものだ。
少し考えていると神威が俺の顔の前で手を振っていて、俺はびくっと肩を揺らした。



「なっ何っ?」
「だって呼んでも返事しないんだもん。ちゅーしちゃおうかと思っちゃった」
「ちゅっ!?って、ふっふざけんなッ!!」
「してないからいいじゃない」
「そういう問題じゃなくて・・・!」
「何か他に問題でも?」



『ん?』と本当に分かっていない顔をしている神威に俺はため息を盛大についた。

なんかもうヤダ。
学校行きたくない。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ