リクエスト

□好きになるのに理由はいらない
1ページ/2ページ

セクハラで訴えてもいいですか?



【好きになるのに理由はいらない】



「「あ」」



江戸の町を散歩がてら歩いていた高杉は角を曲がったところで声を上げた。
目の前にいる黒服の男は高杉が最も会ってはならない人物で即座に逃げようとしたが、それよりも先に相手の手が高杉の手を掴んでいた。
逃げようにも自分よりも体格のよい黒服の男の手を振り切ることが出来ず、高杉は顔を青ざめさせた。
黒服の男――真選組副長、土方は何も言わず高杉を引きずって歩き出した。
完全に高杉は捕まってしまったのだ。



「(ヤバイヤバイヤバイ!!油断した!)」



ヒィィ、と悲鳴を上げそうになった高杉は突然視界が暗くなったのに気付き、辺りを見渡した。
何故か裏路地へと入った土方が高杉を壁へ追いやり真っすぐ瞳を見つめてきた。
距離的に物凄く近い二人はその状態で見つめ合う。この時間がひどく恐ろしく、高杉は半泣き状態だった。



「(ななな何なんだよォ!!何でこんな状況になってんだッ!助けてーッお巡りさーん!!)」



混乱して訳の分からないことを思いながら高杉は必死に抵抗した。だが、やはりびくともしない。
土方の口がすっ、と開く。
高杉は反射的に顔を背け、目をつむった。



「男が男を好きになるって変か?!」
「………は?」



予想外の言葉に高杉は口を開けたままポカンと土方を見つめた。
しばし思考を停止させた高杉は正気を取り戻し、土方の言葉の意味を考える。
からかわれているのか、そう思ったが土方の瞳はどこまでも真剣でとても嘘をついているようには見えなかった。故に高杉は困惑した。
土方の性格を詳しく知っているわけではないが、普段敵として対峙する彼はどこまでも真剣で何事にも真面目に臨んでくる。
何度か刀を交えた際に言葉を交わしたことがあったが、その時もひどく真面目な回答を貰った覚えがある。
そんな土方が敵である高杉にこのような質問を投げかけてくるということは相当悩んでいるのだろう、高杉はそれ相応の対応をしてやらねばと口を開いた。
一つ言おう、高杉は律義な男である、と。



「…人を好きになるのに理由がないように、誰を好きになるかなんてわかんねぇ。例え男を好きになろうと自分で決めた相手なら全力で好きでいてやれ。お前が本気なら、俺は変に思ったり笑ったりなんかしねぇ。お前が本気なら、俺にお前を笑える資格なんてねぇんだからな」
「…高杉!」



高杉の口から紡ぎ出された言葉たちに土方は感動したかのように肩を震わせ、そうだよな!としきりに声を上げた。
高杉は喜んでいる風の土方を見ながらよかったな、とよく分からず当たり障りのない言葉をかけてやった。
しかし、高杉にとってこの状況は良くないわけで。目の前で敵相手にこんな相談を持ちかけてきた土方の真意が伺えない。
高杉は土方の意中に入っていないことを確認し、駆け出そうとしたがその前に肩を掴まれていた。
高杉の視界が土方だけになる。



「おっ俺!高杉のことが…!!」
「はーいストッープ!」



土方の言葉を遮るように言葉をかけて来た人物の名前を高杉は驚いたように口にした。



「銀時?!お前なんで…」
「いやーたまたま通りかかったら真選組の奴と派手な着物の奴が裏路地に入っていくからもしかしたらってな。そしたらビンゴって訳だ。…ところで土方君?」
「……ッ!」



銀時に声をかけられた土方はビクッと肩をはねらせ、ロボットのように銀時を振り返った。
思いっきり脂汗を滴り落としている土方はぎこちない声を出して銀時を見た。



「な、なんだぁ、万事屋・・・?」
「ちょーっといいかなぁー?」
「銀時?」
「晋ちゃんはそこで待っててね」
「あ、あぁ・・・?」



土方の襟首を掴み、引き摺りながら高杉と距離を置いた銀時はギロリと隊服の男を睨みつけた。
その瞳は冷たさとギラギラとした殺意とが織り交ざったなんとも表現しにくい感情を表していた。



「ねぇ、土方君。抜け駆けはしないって約束じゃなかったかな?」
「い、や・・・あれは・・・」
「“高杉のことが…”ってそのあと何言おうとしたの?銀さんに包み隠さず言ってごらん?怒ったりしないから」
「あー・・・その・・・こ、告白しようと・・・しました・・・」



優しげな言葉とは裏腹に棘のある言い方と白夜叉的眼光に耐え切れなくなった土方は肩を落とし、ありのままを話した。
銀時はがっしりと土方の肩を固定し、にっこりと微笑んだ。どうにも彼の笑みには不の感情しかないような気がしてならない。



「約束したよね?抜け駆けは絶対のタブーだって。高杉の昔の話、教えねぇぞ?」
「そ、それは困る!」
「だろ?俺は高杉の昔を教える。お前は今の高杉の情報を教える。そうやって同盟組んだろうが。そこらへん守ってくれなくちゃ困るよ」
「あぁ・・・」



がっくりと肩を落としている土方から離れ、銀時は一人待っているであろう高杉の方を振り向いた。
が、銀時の予想は大きく外れていた。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ