リクエスト

□輝かしい未来に
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あなたが居たから頑張れた。



【輝かしい未来に】



受験が終わったあとの高杉は何日間か放心状態で食事も与えてあげなくては口にしない状態だった。
それが少しヒナに似ていて可愛かったなどと口が裂けても言えない。
漸く自分で食事を摂るようになったのは合格発表の前日だった。
しかし、放心状態から解放された高杉だったが、次は発表への緊張で食事が喉を通らない状況になってしまった。コイツは本当に俺を心配させるのが上手い。
今だって明日の合格発表が気になってなかなか寝付けないでいる。
ベッドに丸まって寝る体勢ではいるのだがその瞳は不安げに揺れ続けている。
明日はその瞳にどんな感情を浮かべるのか、俺も気が気でない。
でも、俺の数百倍不安でいっぱいであろう高杉の頭を撫でてやりながら俺は高杉をぎゅっ、と抱きしめた。



「高杉なら大丈夫だよ。変なミスなんてしなかったんでしょ?」
「…うん。でも…やっぱり俺…」
「晋ちゃんは心配性だなぁ。先生の特別授業受けたんだから自信持ってよ」
「銀八ィ……俺明日、一人で行くから…家で待ってて?」
「けど…」
「電話、するから」



俺の胸に顔を擦り付けながら紡がれた言葉に確固たる決意のようなものを感じられて静かにうん、と呟いた。
無言のまま同じベッドに身を沈め、電気を消せば身じろいだ高杉と目があった。
やはりその瞳は不安そうに揺れている。
眠れないのかい、とどこぞのCMの月のマネをして言葉を吐けば高杉は小さく笑っておやすみ、と呟いて瞳を閉じだ。
願わくば、この子の未来に幸せと喜びがありますように。
祈りはどこへ届くのか。
信じもしない神に祈り続ける俺はそれだけ彼の幸せを願っているのだ。








合格発表当日。
身支度を始めた高杉を後ろから抱きしめてベッドへ押し倒し何度もキスをした。
行動の意味がわかっていない高杉は目を白黒させながら無抵抗で俺を見つめていた。
可愛くて可愛くて愛おしい彼に俺の想いをキスに乗せて体内に注ぎたい気分だった。
大丈夫だよ、俺がついているからね、と彼が安心して見に行けるように。



「ちょ……ん、はぁ…ま、ぁ…ぎ、ぱちっ」



少し抵抗を見せた高杉から俺は唇を離し、至近距離で彼の瞳を見つめる。
潤んだ翡翠色の瞳がとても美しい。



「どうしたんだよ?」
「……ついていけないからいっぱいキスしとこうかと思って」
「変なの」



苦笑気味に言って俺の背に手を回す。
ぎゅっ、と抱き着いてきた高杉の体温は緊張の所為かいつもより高い。
しかし指先だけは何故か冷たくて、無性に心配になってきた。
きっと大丈夫何て言ってるけど、本当は不安で仕方がないんだ。
高杉のことを信じていないわけじゃない。
ただ、受かっていた時に傍に居られない、その喜びを分かち合えないのがどうも俺の精神を不安にしているんだ。



「銀八、そろそろ…」
「ん…あぁ、ごめん」



時間が近づいてきたようで俺はパッと身体を離した。
苦笑を漏らす高杉はどこか儚く見える。
俺は高杉にマフラーを巻いてあげながら小さく笑う。



「高杉…吉報待ってるぜ」
「おう。鼻を長くして待ってろよ、銀八」



口では強気に話す高杉だがやはりどこか頼りなく見える。
俺はもう一度ギュッと抱きしめてそのプックリと柔らかい頬にキスをした。



「なに…?」
「いってらっしゃいのちゅ〜」
「ははっ、いってきます」



ほんの少し緊張のほぐれた様子の高杉に手を振り、俺はその笑顔を見送った。








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