リクエスト

□不安定要素
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大声を上げて泣き叫んで。

相手を拒んで突き飛ばして。


それでも俺達は愛を育み合う。



【不安定要素】



坂本と話している途中、高杉が顔面蒼白で息を切らしてトイレから戻ってきた。



「はっ…あ…ぎ、とき…ッ」
「高杉?」



グラグラと揺れ動く瞳と目が合うと泣きそうな顔の高杉が抱き着いてきた。
クラスがどよめく。
見てくれるな、クラスメイト達よ。
ヒソヒソと聞こえる言葉を無視し、高杉の頭を撫でる。



「どうしたの、晋ちゃん?」
「うぅ……ゃ、だ…っ」
「やだじゃわかんないでしょ?ほら、銀さんがついてるから落ち着こうね」
「ううぅ…ぎん…」



よしよし、と背中をリズムよく叩いてやる。
子供のように身を縮こませて震える高杉はとても弱い存在だ。
普段からでは考えられない高杉の姿に未だクラスはどよめいていた。
冷やかすような言葉がかからないのが幸いだ。



「大丈夫なんか、晋助は」
「あー、平気。たまにこうなんの。学校では初めてだけど」



高杉は左目を失ってからこうなることが多くなった。
普段はなんてことない生活を送れるのだが、何かの拍子にスイッチが入ったかのように鬱状態になってしまうのだ。
今回も何が理由だかわからないが、何かしら精神にくるものがあったのだろう。
腕の中で震える高杉に視線を落し、彼に気づかれないように小さくため息をついた。



「わしに出来ることはあるか?」
「暫くこうしてりゃ落ち着くから」
「そうか…晋助ぇ…大丈夫じゃから落ち着きぃ」
「バカッ、やめっ」
「え?」
「いやあぁぁああぁぁあっ!!」



坂本が頭に触れた瞬間、高杉が可也声をあげ叫んだ。
咄嗟に制止の声をあげたが間に合わなかった。
パニック状態のように奇声を発する高杉が俺の手を振り解き、教室の隅の方へわたわたと逃げる。
そして縮こまるように体を小さく壁に寄せ、カタカタと震えながら荒い息を何度も繰り返していた。
驚いたのは坂本だ。
ただ、いつものように頭を撫でようとしただけなのだ。無理もない。



「し、晋助」
「来るなッ!!」



それでもなお、近づこうとした坂本に高杉の怒声が鳴り響く。
親の仇のような目で睨みつけてくる高杉から目を見開いて驚いたままの坂本を遠ざけ、ゆっくり近づく。



「高杉ー。銀さんだよー?」
「……う、あ…ぎん…とき…?」
「そ。大丈夫だから保健室行こうね」
「あ、ぁ……ぎんときぎんときぎんときっ」



必死に手を差し出してくる高杉の手を優しく取り、ぎゅっ、と抱きしめて抱える。
状況についていけてないクラスメイトたちに小さく謝罪の言葉をかけ、保健室へと向かった。








保健医に事情を説明して貸し切らせてもらった保健室のベッドに二人で寝転ぶ。
しっかりと俺のワイシャツを掴んで放さない高杉の頭を撫でて瞼を閉じた。

高杉はレイプされたことがある。
それはむしろ暴行といった方がわかりやすいかもしれない。
相手は一人だったのだが、ナイフ片手に高杉を脅し、好き勝手犯した後に彼の左目をえぐって逃走した。



「(あの日・・・喧嘩なんかしていなければあんなことには・・・)」



くだらない内容で喧嘩して逃げるように先に帰った俺は高杉の母親から電話がかかるまでふて腐れて寝ていた。
尋常でないほど取り乱した様子のおばさんを電話越しに宥め、慌てて探しに出てひどい有様の高杉を発見した。
ボロ雑巾のように無残に転がった半裸の高杉。周りに溜まった血が彼の悲しみ、辛さで流れる涙のように見えた。
警察と救急車に連絡し、一命を取り止めたものの、左目と高杉の心にできた傷は一生治らないものとなった。
それから時々思い出したかのように泣き叫ぶ高杉を宥めてきた。
元々プライドの高い高杉は学校では努めて強くあり続けた。だから学校でこうなることはなかった。

今は落ち着いて寝ている高杉をしっかり抱きしめ、瞳をゆっくり開ける。
多少顔色は悪いがいつも通りの高杉の様子にあの悲惨な状況が夢のように思えた。
しかし、あの時の血のにおいや俺が感じた絶望感は紛れも無く変えようのない事実で、どうしてあの日喧嘩をしてしまったのかと後悔している。



「(喧嘩さえしなければ、アイツはレイプされることはなかった…俺が…俺がついてさえいれば…!!)」



悔やんでも悔やみきれない思い。あの時のことを思い出して泣き叫ぶ高杉を見る度に胸を締め付けるような思いが募る。
そっと高杉の眼帯を撫でる。眼球を無くしてもなお涙は出るらしく、ほんの少し湿っていて切なくなった。
本来ならここにあるはずの瞳は今は空っぽで、それでも涙を流し続けている。それが俺に対しての罪のようで、彼が涙を流す度やはりズキズキと胸が痛くなる。



「(俺がずっと高杉を守り続ける。それが俺のコイツに出来る罪滅ぼしだ)」



どうか、彼の心が安らぐところに俺という存在がありますように。
そうして彼の心が少しずつ癒されて、いつかなんの心配もなく過ごせる日が来ることを永久に願う。
もぞっ、と腕の中で高杉が動いた。その反応が安心できる。生きているのだと実感できる。
公園の茂みに死んだように倒れていた高杉を見つけた時、肝が冷えた。
水溜まりのように広がる赤いに血の気を全て持って行かれた気分だった。
死んでしまったのかと思った。
当たり前と思っていた存在が自分の手からこぼれ落ちていったかと思った。
必死にその命を拾おうと手を伸ばして俺は辛うじて掴んだ。



「(だから今度は…これからは絶対にその手を離さない)」



高杉の小さな手に自分の手を絡める。
この小さな幼馴染を守るのは俺だ。他の誰でもない、俺自身が高杉を守らなくてはならない。
ぴくっ、と高杉の瞼が動き、ゆっくり目が見開かれていく。



「うああぁぁあぁああっ!!」
「高杉…!?どうした!!」



狂ったように叫んだ高杉が頭を押さえて暴れだした。
腕を掴み、呼び掛けるも聞こえていないのか、腕を振りほどかれた。



「高杉!!」
「死ねばよかった!死んだ方がマシだ!!」
「何言ってんだよ!変なこと言うんじゃねぇ!」
「あんな…あんなことされといて生きてるなんて…!!」
「晋助ッ!!」



死ねばよかったと喚く高杉を力一杯抱きしめる。
始めは抵抗されて顔を引っ掛かれたが徐々に落ち着きを取り戻してきた。



「あ…あぁ…ぎん、とき…?」
「皆のアイドル、銀さんだよー」
「痛い…痛いよぉ…銀時ィ…」



子供のようにしゃくりをあげて泣く高杉の頭を撫で、そっと眼帯を外す。
あらわになった傷一つない瞼の上に優しくキスを落とした。



「大丈夫…大丈夫だからな」
「うぅ……あ…ぎ、とき・・・ィ」



焦点の合っていなかった瞳が落ち着きを取り戻したように定まっていく。
そして顔を青くした高杉が起き上がって自らの腕を掴んで呟いた。



「ぁ・・・俺・・・学校で・・・」
「大丈夫だよ。俺がついてるから・・・俺がずっと一緒にいてあげるからね」
「銀時ィ…!!」



ぎゅっ、と抱き合った俺たちは互いが互いに依存し合って生きている。
もしもどちらかがどちらかを必要としなくなったら、生きていけなくなる。
生きる意味を、失ってしまう。
だから、依存し合っているこの状況こそが俺たちの幸せで、幸福の時なのだ。
不謹慎かもしれないがこの時がずっと続けばいいと願ってしまう。
俺の手の届く範囲に高杉が居ることを、ずっと、永久に、一生、願い続けるのだ。



彼に向ける一種の愛。



終わり



はい意味不ッ←
リクエストを書こうと思ったらいっつも空回りします。
水兎様、こんなんで宜しいですかね;;
しょうもない感じで申し訳ありません。
43000hit小説でした。
2010/04/10 潤

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