Novel2

□伸ばした手は無効
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こんな気持ち、気づくんじゃなかった。
気づかなければずっとこのままあいつの親友で居られたのに。

あいつの優しさが痛い。
あいつの笑顔が、怖い。

お願いだから、俺に自分の幸せを望ませないでくれ。

俺はあいつを応援するって決めた。
だから、俺にヤキモチを妬く権利なんかなくて。
俺にあいつを想う権利なんかなくて。
俺にあいつを触れる権利なんかなくて。

『私、この間コウちゃんに告白されて。付き合う事になったの』

その言葉を聞いて、俺は心にぽっかりと穴が空いた。
傍に居て安心できる唯一の存在は、もう俺の隣には居なくなってしまったようだ。今までだって隣に居れたのは友人として、だけれど。
もう、隣を見ても、お前が居ないなんて思ったら、なんか辛くなってきて。

「そっか、おめでとう。」

なぁ。
お前からみて俺はちゃんと笑えてる?
笑えてなかったらごめん。
もう相談される事も、応援する事も、練習なんて理由でデートする事も全部全部出来なくなるんだろうなって、そう思ったら、なんか崩れそうで。バラバラになりそうで、なんか俺おかしいんだ。

お前がもう隣に居なくなるのかと思うと、どうしようもなく空虚で。


"好き"なんて感情。
今更溢れてきて。

『ルカちゃんと友達になれて、よかった』

「そ?嬉しい。」
くすり、と笑ってみるけど、どうも上手く笑えないみたいだ。

嬉しくない。
嬉しいもんか。


でもこの気持ちは絶対に教えちゃいけない。
教えればあいつを困らせるし、俺が俺自身を押さえられなくなる。

『コウちゃんとこれから待ち合わせしてるの。じゃ、もういくね。ルカちゃん、本当にありがとう。』

「…どういたしまして。デート、楽しんできて。」


この場所から去れば、もう俺は、必要なくなって。
もう少し。一秒だっていい。もう少し、一秒だけでも長くお前と居たいのに。
でもそんなの許されるわけなくて。

後姿のあいつにバイバイ、と手を振っていた手を、
あいつに向かって手を伸ばす。
許されないのはわかってる。
でも。
だから、最初で最後でいいから。

お前を、抱きしめたい

「…、」


"コウちゃんと付き合う事になったの"



"ルカちゃんと、友達になれてよかった"

あいつの言葉が頭の中で反響する。


伸ばした手を、俺は自分の元へ戻す。
悔しくて、悔しくてどうにかなりそうだった。

何に悔しいのかなんてわからない。
けどこの感情は、悔しいって表現が一番合ってる。



俺にお前を抱きしめる事なんか出来るもんか。












あいつの幸せそうな顔を見れば、抱きしめて困らせる事なんか出来っこない。

もう俺の事は見ない。
わかってる、そんな事。


20100727
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





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