Novel

□目には目を
1ページ/1ページ




『もう危ない事しないで』
「んー…。」
『もしもの事があったら―…!』
もしもの事?
そんなの起こる時はもしもじゃなくたって起こる。
「…ごめん」
出かかった言葉を飲み込んで出てきたのは謝罪の言葉

『…わかった。じゃあ私、』

何がわかったと言うのか。
意を決したように彼女は―
彼女は屋上の塀に足をかけた。
足をかけたときパンツがちょっと見えた気がしないでもないけど俺は気にしてないよ、全く気にしてない!

彼女が足をかけたのは俺がよく登って、―スリルといえばいいか―…まぁ、そんなのを味わっている所で。

一体何をしようとしてるんだろうか。

おぼつかない足で登り上がれば、これでいいんだ、と言わんばかりの顔をしてこちらをみる。
彼女は足場を確かめ、フラフラと立ち上がる。

あ、まずい。
彼女のやりたい事がわかった。
「危ない!」
危ないから降りて、俺の言葉なんか聞こえないとでも言うのか。
はたまた恐怖を掻き消すためなのか。
『結構景色いいね』
なんて余裕こいた台詞を吐く。
余裕な顔して足はがくがくと震えているもんだから説得力がない。
「わかったから…降りよう?」

俺の願いも虚しく彼女は今度歩いて見せる。
平均台を歩くが如く手を伸ばしてバランスを保とうとしてるけど、ブレる重心。
あぁ、かなり危なっかしい。
『わ、これ…結…構難しい、ね…』
フラフラぐらぐら。
見てるこっちがヒヤヒヤする。
もし落ちたらどうするんだ。
「お願いだからさ…」
俺は反射神経に結構自信がある。
落ちそうになればなんとかして安全に降りる。
でも彼女は俺と違ってそこまで反射神経がいいはずがない。
バランスを崩せば真っ逆さま。

『わっ』
「馬鹿っ!!」
彼女の足が大きく揺れる
ああ、言わんこっちゃない。
落ちる、そう思ったときにはもう彼女の腕を掴んで自分の胸に引き寄せていて。
『…っ!』

あぁ、危ない。
彼女の心臓も俺の心臓もバクバク言ってる。

危ない、危ない危ない!!

落ちたらどうするんだ
なんでこんな事…、
「落ちたらどうするんだ…っ」
自分でもびっくりする位の大きな声。
『…平気、不死身のヒーローだから…』
俺の腕の中から震えた声でどこかで聞いたような言葉が聞こえた。
どこかで、じゃない。
俺の言葉。

「なんでこんな事したの」
『…。』
「もしかしたら、死ぬかもしれないのに…」
『………もしかしなくても、人は死ぬんでしょ?』

どきり、鼓動が早くなる。
彼女は辛そうに優しく微笑んでいて。
確かにそうだ。だけど、
「…俺はお前も失ったらどうすればいい」
腕に力を込める。
苦しい、なんて声が聞こえたけどそんなの聞こえないフリ
『わ、私は、』
「死んだら何も残らないのに、」
『それだよ…。』
ピシャリと彼女は言い切る。
「……!」
『私が言いたいのは、それなの』
あぁ、そうか。
「…。」
『私は、ルカが居なくなったら嫌だよ…』

彼女は自分の身を賭けて俺に思い知らせたかったのか。

「…ごめん、わかった。…もうしないから、だからこんな事、もうしないで…」
なんでそこまで。
そこまでされたら俺は…。


「俺はお前を、失いたくないんだ」











彼女には、敵わない

20100709
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ