Novel

□今はまだ
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『ね、ハリーの好きなもの、知ってる?』

あいつがいきなり『いつもお世話になってるマスターにお礼がしたい』なんていうから今日は二人で珊瑚礁の大掃除をしているわけで。
俺はあいつと二人きりになれ…あ、いや珊瑚礁をもっと綺麗にしたかったからOKしたものの、俺はなぜ針谷についてアレコレ言われてるんだ…?

『ねぇ佐伯君聞いてるの?』
「あ、あぁ、聞いてるよ。どうして僕にそんな事聞くんだい?あは、あはは!」
針谷の事なんて、面白くない。顔が引き攣って上手に動揺も隠せない。
っていうかこれじゃ、あきらかに不自然だから!どうしたんだよ俺…
『もう、真面目に聞いてるのに!』
ぷう、と頬を膨らませて俺を一生懸命睨むあいつだけど。
か、可愛い…。
じゃないっ!あぁもう、なんだよ俺!
「悪かった、もう睨むなって。…で?なんでいきなり針谷の好きなもの…?」
『そ…それは、その』
徐々に顔が赤くなってしおらしくなっていく。…もしかして、こいつ…。嫌な予感が頭を過ぎる。
「その、なんだ?」
聞きたくないのに。
聞きたく、ないのに。
こういう時、人間の性ってやつを呪いたくなる。

『い、いいじゃんっ、知らないならいいよっ他の人に聞くから!えーと、えーと、志波君とか!あとクリス君とか!』

また男の名前。面白くない。志波ってあの無口で無愛想な奴か…。クリスは…金髪でいつも女を追っかけてるような奴だよな…。
くそ、面白くない。どんだけ男に縁があんだよ…。

まぁ話をはぐらかされて助かったけど…なんだかモヤモヤする…。
でも今は聞かなくていいや、と思った。

「本人に聞きゃあいいだろ」
言った後に、後悔。
あいつは目をパチパチしながら俺を見た。
『そ、そうだよね…!やっぱり、そうしようかな』
ほらもう手遅れだ。俺は針谷にこいつと話すチャンスを与えてたのだ…。
俺がうなだれているとあいつは『よし、佐伯君のおかげですっきりしたぞ!よし、掃除の続きだ!』と意気揚々と掃除を始めた。俺はすっきりしてない…。
『佐伯君』
いきなり呼ばれて振り向くと。
『ありがとう』
俺の一番好きな笑顔で微笑んでくれた。








俺はお前が、好きだから。





20081231
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





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