Novel

□もうやめよう
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こんなの、やめよう

そう切り出したのは僕の方で―

別れよう

そう呟いたのも、僕の方―…



「ねぇ、先輩。今度はいつ逢えるかな。」
カラン、とアイスロイヤルミルクティーに浸かってた氷が音を鳴らす。

先輩が一流大学に進学してから幾分か時間は流れて。

先輩の卒業式の時に僕は思い切って告白した。それから付き合う事になって晴れて両想い、ってなわけで。
でもお互い時間が合わなくてデートも全然できなくて。
久しぶりのデートだっていうのに(喫茶店に居るだけだから"デート"っていうのかはわからないけど)、僕は次に逢う事ばかり考えてしまう。

「………。」

どうしてそんな考えてしまうのかって。
だって…先輩は僕と居ても上の空だから。
久しぶりに逢った、恋しいはずの彼氏の僕に「逢いたかったよ」「好きだよ」なんていう言葉をかける事もなく。

「ねぇ、先輩。聞いてるの?」

先輩は。

「え……?」

ただ、遠くを見ていて。

「あっ…ごめん、なん…だっけ…?」


恋しいはずの彼氏の僕、なんてきっと嘘かもしれない

両想いなんて、きっと嘘かもしれない
だって先輩に告白してからいつだって先輩はこんなんだ。
ずっとずっと上の空。
何度デートしても、何度キスしても、僕じゃない「なにか」を見てる。
僕を見てるんだけど、それは本当に僕を見てくれているわけじゃないような感じ。

それを考えると、告白した時からかもしれない。
いや、告白してる時から―…?

もしかしたら先輩は義理で僕と付き合っているだけなのかもしれない…

違う、これは義理なんかじゃないよ、これは僕を通して―…


「ねぇ。」

不意に呼ばれる

「な、何?」

「私の事、好き?」

どういう、事…?
いきなりどうしてそんな事聞くの。
どうしてまた遠くを見てるの。

「すき、だよ」
…ずっと好きだったんだ。入学してからずっとずっと好きで。
今も、変わらずに。

「そっ…かぁ…」

先輩は、切なそうに、

「ありがとうっ」

嬉しそうに微笑んだ。

「先輩は…、僕の…事、―……

ううん、僕だけの事…、

―好き?」

直ぐに言い直した事を後悔した。

「も、もちろん!」
瞳を揺らしながら言う先輩は説得力のカケラも感じられなくて。
「貴方の事、好きだよ」

ぷつり、何かが切れる音。

"貴方の事、"


そうだ。
先輩は付き合ってから一度も僕を名前で呼んでくれた事がない。


"僕"の事、最初から見てくれてなかった証拠だ。

やっとわかったよ。
誰かと僕を重ねてるんでしょう?
だから、僕と逢っても上の空で…
僕ばっかり先輩を好きだったんだ。先輩は僕なんて好きじゃなかったんだ

先輩は僕を通して誰かを見てた
先輩は僕じゃない、別に好きな人が居て
先輩は別に僕なんか好きじゃなくて

僕ばっかり先輩を好きで
僕ばっかり先輩を愛して
僕ばっかり、



「もう、やめよう」

気が付いたら言葉が口から零れてた。

「え、な、なに…が…?」
瞳孔を開いて僕を見る先輩。

「こんなの、よくないよ」

あぁ、ほら、今だって僕を誰かと重ねてる。

「え、え…?」

もう、気付いちゃったから。

「別れよう」
「…!!…待…っ待ってな、何がっ」

もう、ついていけない

「じゃぁね」

これじゃ僕も先輩も、救われない

「…や、う、そ…嘘っ…嘘はやめて、よ…」









(僕はそう言って、席を立ちました)




待ってと啜り泣く声が聞こえた。
でも、本当に泣きたいのはどちらでしょうか?
20090816
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





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