Novel

□噂
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自慢じゃないが、私は遅刻魔だ。
いつもいつも遅刻する。
早く起きようとするのだけれど、お得意の低血圧のせいでなかなか起きれないのだ。
低血圧にしかわからない苦しみなわけで。

****

―急がなきゃ。
一限は若王子先生の化学授業。遅刻したとしても、先生はけして怒鳴ったりはしないだろうけれど、私は急がなくちゃいけなくて。だって先生の授業は世界一楽しいのだから。

バタバタと走る音が廊下に響く。

――あ。

今更気づくのもどうかと思うのだけれど。私の前にも一人、男子生徒が居た。

――彼は…

久しぶりに早く登校出来た時に見かけた事がある

――確か…

ヘルメットを被って自転車で登校している人だ。

確か名前が…

―…氷上格

風紀員だか生徒会に入っているんだっけ…?
毎朝校門前に立って挨拶運動(よくわからないけど)をしていた気がしないでもない。

私が登校する時はもう彼は居ないため、近くで見るのは初めてかもしれない

それにしても、生徒の要の様な彼が何故今頃廊下を歩いているのだろう。
歩くというよりは早歩きって感じだけど。

彼なら「5分前には着席し、教科書を開いて授業の予習をするべき」とか言いそうなのに。
だから彼に限って遅刻なんて、するはずなくて。
遅刻魔友達から、氷上格は「おかたい」とか「厳しい」とか「捕まったら最後」とか色々教えてもらった。

私…そういう人って少し苦手なんだよね。
それに…。やっぱり近くで見るとその…友達の言う通り…すごく、厳しそうだもの。血も涙もないって感じ…すごい冷たそう…。あぁ嫌だなぁ。

歩いてる彼、彼に気がついて速度を落としてはいるものの走っている私。どんどん縮まる二人の距離。


じ、と彼を見続けてよそ見をしていたせいか、足が縺れて、私は盛大に転んだ。

『……っ』
あぁもうついてない。

起き上がろうとしたら、少しだけ、威圧感。
きっと、目の前に鬼の氷上格がいる。どうしよう。
あぁ…"廊下を走るな!走っていたからこうなるのだ!"なんて怒られてしまうかもしれない。あぁもう、最悪。

諦めて顔をあげると、何故か手を差し延べられていて。
「大丈夫かい…?」
なんて言う。しかも心配そうな顔をして。
「怪我など、してないかい?」
な、何この人…。噂と全然違うじゃない…。
『え、あ…うん』
手を貸して貰って立ち上がり、散らばった教科書を拾う。
「そうか、よかった。僕も、手伝おう」
ニコリと笑顔を見せる彼。
何この人…優しい…?

『…ありがとう』



噂、うわさ、ウワサ
簡単に信じては、ダメ




(ねぇ、なんで氷上君は遅刻していたの?)

(あぁ、遅刻指導が遅くなってしまってね)

(そうなんだ…。)



これからはもう少し、頑張って起きてみようかな、なんて思った。
20091014改
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





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