Novel
□噂
1ページ/1ページ
自慢じゃないが、私は遅刻魔だ。
いつもいつも遅刻する。
早く起きようとするのだけれど、お得意の低血圧のせいでなかなか起きれないのだ。
低血圧にしかわからない苦しみなわけで。
****
―急がなきゃ。
一限は若王子先生の化学授業。遅刻したとしても、先生はけして怒鳴ったりはしないだろうけれど、私は急がなくちゃいけなくて。だって先生の授業は世界一楽しいのだから。
バタバタと走る音が廊下に響く。
――あ。
今更気づくのもどうかと思うのだけれど。私の前にも一人、男子生徒が居た。
――彼は…
久しぶりに早く登校出来た時に見かけた事がある
――確か…
ヘルメットを被って自転車で登校している人だ。
確か名前が…
―…氷上格
風紀員だか生徒会に入っているんだっけ…?
毎朝校門前に立って挨拶運動(よくわからないけど)をしていた気がしないでもない。
私が登校する時はもう彼は居ないため、近くで見るのは初めてかもしれない
それにしても、生徒の要の様な彼が何故今頃廊下を歩いているのだろう。
歩くというよりは早歩きって感じだけど。
彼なら「5分前には着席し、教科書を開いて授業の予習をするべき」とか言いそうなのに。
だから彼に限って遅刻なんて、するはずなくて。
遅刻魔友達から、氷上格は「おかたい」とか「厳しい」とか「捕まったら最後」とか色々教えてもらった。
私…そういう人って少し苦手なんだよね。
それに…。やっぱり近くで見るとその…友達の言う通り…すごく、厳しそうだもの。血も涙もないって感じ…すごい冷たそう…。あぁ嫌だなぁ。
歩いてる彼、彼に気がついて速度を落としてはいるものの走っている私。どんどん縮まる二人の距離。
じ、と彼を見続けてよそ見をしていたせいか、足が縺れて、私は盛大に転んだ。
『……っ』
あぁもうついてない。
起き上がろうとしたら、少しだけ、威圧感。
きっと、目の前に鬼の氷上格がいる。どうしよう。
あぁ…"廊下を走るな!走っていたからこうなるのだ!"なんて怒られてしまうかもしれない。あぁもう、最悪。
諦めて顔をあげると、何故か手を差し延べられていて。
「大丈夫かい…?」
なんて言う。しかも心配そうな顔をして。
「怪我など、してないかい?」
な、何この人…。噂と全然違うじゃない…。
『え、あ…うん』
手を貸して貰って立ち上がり、散らばった教科書を拾う。
「そうか、よかった。僕も、手伝おう」
ニコリと笑顔を見せる彼。
何この人…優しい…?
『…ありがとう』
噂、うわさ、ウワサ
簡単に信じては、ダメね
(ねぇ、なんで氷上君は遅刻していたの?)
(あぁ、遅刻指導が遅くなってしまってね)
(そうなんだ…。)
これからはもう少し、頑張って起きてみようかな、なんて思った。
20091014改
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea