Novel

□甘美
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ぼろぼろと頬を伝って落ちる少女の雫。
そんな姿を見ていると。

僕はなんだか、おかしくなる。





化学準備室。勿論鍵はかけて。
僕と少女、二人きり。

少女はぺたりと床に座って祈願しながら涙を流している。
僕はただそれを、黙ってみている。
お願い、嫌いにならないで。そう少女は呟きながら涙を零す。
僕はただそれを、黙ってみている。

「おね、がい…」
少女は何度この祈願する時に使う"お願い"という言葉を発しただろうか。少女がお願いと呟く度僕は面白くなる。
にぃ、と口角が上がって行くのが自分でもわかるくらいに。
あまりにも面白くて、時間が経つのも忘れてしまった。少女をここへ連れて来てから何時間経っただろう。

そろそろ黙っているだけでは退屈してきました。

僕はただこの少女と二人きりになりたかっただけですから、別に本当はこんな事どうだっていい事なのだけど。この準備室に連れ込んだ理由と思われているであろう言葉を発してやる。

「僕は君になんて言った?」

僕の言葉にピクリ、と少女は肩を動かす。

「…さ、佐伯君や、ハリー達と、口をきくなって―…」
そうだね。正解だ
事実上は。


口をきかないなんてこんなのは不可能だ。
無理だとわかっていたから君に言ったんだ。
僕以外の男とは喋るなと、ね。

「それで君は何をした?」
制服のケープのリボンを乱暴に引っ張る。まるで犬のリードを引っ張っているように。

「しゃ、しゃべり…ました…」
「ごめ…な、さ…」
僕の眼に恐怖を抱いたのか謝罪する少女。

とてもいい眺めだ。

優等生の少女が涙を流しながら、僕にひざまづきながら、詫び言を言っているのだから。

リボンを持つ手に力が篭る。リボンを強く持てば当たり前だけれど首が絞まるようで。

色白な少女の頬がみるみると紅色に変わる。
「く、苦し…で、す、せん…せ…」
本当に苦しいのか辛そうな表情をする少女。

その表情にぞくりと"何か"を感じる。

この少女は僕の加虐心を煽る事が本当に、とても上手いようだ。

そろそろ許してあげようと思ったのだけど、こんな顔をされては、歯止めが利かなくなる。

もっともっと、意地悪して泣かせたくなる。
僕のために、泣かせたい。

君は、僕のものだ。

リボンを持つ手を離す。
少女は音を立てて床に倒れ込み、げほげほと咳込む。

僕の影で隠すように倒れ込んだ少女の目の前に立つ。

「泣いて、どうするんです?」
「…!…ご…めん、なさい」
彼女は反省しているようだから、ここで折れてあげられたらいいのだけど。

もう少しだけ、意地悪がしたい。そんな欲望が僕を飲み込んで行く。
良心も理性も、全て飲み込まれて行く感覚。
止まらない、感情。

「どうしてほしい?」
「……も、…しな…いから、嫌いに…ならないで…くださ…」
許してくださいではなく、嫌いになるな、だなんて彼女らしい。
相当僕に好意を抱いている証拠
「…わかりました。」
少女はほっとしたように笑う。
「でも。条件があります」
少女の顔から安堵の笑みが消える。
「今ここで―…制服を脱ぐことが出来たら。」
「…え…、」
「僕が好きならそれくらい出来るでしょう?」
「そ、それは」
「出来ないなら、いいですよ…?君の僕への愛情はそんなものなのですから。」
「…!や、…やります!…だから、嫌いに、ならないで、お願い…」
語尾はもう掠れて。
震える君を見ると少しやり過ぎたかなと思う。

少女は震える指でケープを外す。ぱさりと音をたててケープが床に落下する。
少女はワンピースのチャックに手をかけ、それを下ろす。
ワンピースから、ちらりと白い肩とその肩にかかる可愛いらしい下着の紐が顔を出す。

羞恥心で顔がみるみる赤くなる少女。
やっぱり少しやり過ぎてしまったようだ。
羞恥をごまかすように少女はかたく目をつむっている。

僕の出す無理なお願いをこの少女は、健気に叶えようとする。

「もうわかった。」
ご褒美に、と少女に優しくキスをする。
舌は入れない。
触れるだけのキス。

無理なお願い、か。
普通なら嫌だと逃げるだろう。
でも少女は逃げない。

「ごめんね。君を愛しているから。だから僕は君を困らせたくていじわるをしてしまう」
泣き腫らした顔をした彼女を、ぎゅうと優しく抱きしめ、耳元で囁く。
「愛してる、誰よりも」
少女は小さく頷いて僕の背中に手を回す。

「せんせ、わたしも、愛しています」
こんなに冷たくしても。
こんなに無理な事を言っても。
少女は僕の事を"愛してる"と言って慕ってくれる。

嬉しい事だけど。

そんな事言われると僕は―…

「次裏切ったら。君を殺してしまうかもしれない」

―…君をもっと独占したくなる

びくり、彼女が肩を震わせる。
愛しているから誰にも渡したくない。
声も、眼差しも、心も、四肢も全て全て全て。
僕のものだ。

誰ひとりとして渡さない。
全部僕のものだ。

誰一人として見せるものか。
この少女の艶めかしい泣き顔を。

あぁ。また君を、泣かせてしまった。

だけれど君が泣けば泣くほど。僕は君を好きになる。







喜ぶ顔より泣き顔が好きだなんて、僕は狂ってるのかもしれない

20091124
一片一檎
Hitohira Ichigo
*
Afternoon tea





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