ガロファノの花弁
□銀幕準備
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「・・・何で、リンドーを助けようとしてくれたんだよ?」
ルカにとって、D機関に属す者にとって、Dに感染した者は敵だ。特に可畏はサロと密接な繋がりを感じる。彼から感じる兄の血の匂いとは別に、彼が直接触れたような匂いの残滓も感じるのだ。それ程サロと近い人物が何故、彼が殺意を持って殺した竜胆を助けるべく自分に知恵をくれたのだろうか。
すると可畏は物憂げな顔をして目を伏せた。妖艶な顔立ちがそっと憂いを帯びたように見える。
「・・・ルカ君は知ってるよね?僕があの子の指導員だったの」
「・・・嗚呼」
「可愛い弟分だから、失いたくなかった。君に会いに行こうとしてたサロ様に・・あの子を傷付けないように、殺さないように頼んだんだ。でもあんな事になってしまったから・・・君に頼るしか無かった」
「・・・・・・。」
「有り難う。竜胆君を助けてくれて」
儚い微笑みを浮かべて可畏は頭を下げた。一瞬、ルカは彼が感染者であることを忘れてしまった。
「・・・だけど、オレの所為でリンドーはオレ達と同じようになった」
「そうだね。それに・・多分あの子も僕のように、いずれ母なる血を求めると思う・・・」
「母なる、血・・?」
聞き慣れない単語に思わず疑問視を向ける。可畏は頷くとこちらに歩み寄ってきた。咄嗟に引き金を引きかけたが、可畏が殺意も無ければ敵意も無い様子だった為に動揺して銃を降ろした。可畏はルカの前に跪き、ルカの手を取った。グローブのすぐ下の手首の辺りを指でそっと撫でる。
「君の御令兄・・・サロ様が考えた名称だよ。オリジナルのウイルスを保有する君達の血。僕ら感染者に第二の人生を与える血だからと名付けたんだって。サロ様の場合は体液も含むけど」
「・・・そのネーミングセンスのねぇ血をどうしてリンドーが欲しがんだよ」
第二の人生を与えるという意味なら、既に竜胆はルカの血液を得ている。可畏の言うようにはならないはずだ。
「僕らはね、定期的に母なる血を摂取しないと体に負担が掛かるんだ。それで大体の下等なD達は苦しみで一層狂暴化する。僕もだけど・・」
「・・それはアンタらの場合だろ。リンドーもそうなるなんて事は・・・」
「母なる血は同時に枷なんだ。サロ様はそれでD達を従えてる。同族を縛り付ける力が君達にはあるんだよ。いくら君が抗体を持っていても、オリジナルの拘束力は消せないと思う」
「・・・・・・。」
簡単に否定できない。
蟻や蜂と一緒だ。女王は子供達に反抗などさせずに使役する。それは本能によるものだが、自分達の場合は逆らえない血を使うことで使役するのだと思う。
「僕も・・・そろそろ辛いんだけどね」
可畏はそっと胸を押さえる。小さな呟きは痛みを堪えるようだった。
「クソ兄貴は・・アンタに血をやらないのか」
「いや・・君との戦闘で傷付いたサロ様に牙を立てる訳にはいかなかったからね。いつもは・・・うん」
曖昧に微笑む。可畏が心底彼を慕い、労っているのが何となく察することができた。少なくとも、彼は血によって彼に従っているようには見えない。主のためなら命など惜しくないという忠義を感じられた。