ガロファノの花弁

□Fallen Angel.
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連続した銃声が広いホールに響き渡り、余韻を残して溶けていく。薬莢がカラカラと零れて銃の持ち主のブーツに当たった。

「・・・・・・チッ」

ルカは弾倉を交換し、舌打ちをする。射撃場に設置されたターゲットの頭部にあまり弾丸が命中しなかったのだ。

「射撃能力は以前と大して変わらないな。いっそ近接攻撃を主に切り替えたらどうだ?お前の頑丈さだけは評価出来るからな」

「るっせー!!・・ッスよ、副隊長。つかオレ・・正直な所、D感染者としてのスキルに頼りたくないんですよ」

射撃場の椅子に座って観察をしていたらしいサヴァは眼鏡を一旦外し、眉間の辺りを指先で揉んでいる。寝不足なのだろうか。

「とんだ宝の持ち腐れだな」

「リンドーだって、出来る限り今まで通りで戦うって言ってたのに、オレだけにそれを言いますのね・・・。依怙贔屓」

「何か言ったか?糞餓鬼」

「何も言ってねぇよ。ド鬼畜眼鏡」

ベーッと舌を出して反抗してみると、サヴァの人差し指と中指が鋏のように動かされ、舌を切り落とすようなジェスチャーをしてきた。

「オレは・・・兄貴と同じようにゃ、なりたくないんスよ。それにオレみたいな人間としても感染者としても半端な奴が、むやみに力に頼ったらどうなるかわかんねーですし」

「半端か・・・記憶とやらが戻ってから、随分と卑屈になったな」

「そっスか。自分じゃ気付かねぇもんなんで・・・」

記憶が戻る前は、我ながら今以上に馬鹿らしかった気がする。記憶の空白を気にする事もなく、悩み事も無かったからだろう。だが今は違う。幼少の記憶と兄に対するどす黒い感情が、些か以上の割合でルカの心を凍てつかせている。

たった一人の肉親を八つ裂きにしろ。その魂すら粉微塵に掻き消してやれ。ケダモノの様に食い破れ。
それこそが、至高の愛。

そんな声が頭蓋の内で反響する。

「副隊長、ルー」

特徴的な呼称に振り向くと、予想通りのホセの姿が射撃場の出入り口に確認出来た。彼の腰ほどまであるキャスター付きのケースを横に置いており、ルカは不思議そうに首を傾げた。ホセはサヴァへ軽く会釈をし、キャスターを引いてこちらに歩み寄ってきた。

「ホセ、どうかしたか」

「副隊長に見てもらいたい物があって。ついでにルーにも協力を頼みたい」

「オレ?」

ホセに手招きされ、拳銃をしまってケースの隣に立った。ケースの中身が妙に気になりそわそわとしていると、頭を撫でられて制された。

「試作段階ですが、新しい兵器として検討していただけないかと」

「見せてみろ」

指示されるなり、ホセはケースの鍵を開けていく。ケースが開くと中にはアンプの様な黒い箱が入っていた。ホセは自分のノートパソコンとそれをUSBで接続し、何やらカタカタと打ち込みだした。

「ルー、ごめん」

「は?」

いきなりの謝罪に素っ頓狂な声を上げた時、ホセがエンターキーを叩いた。
途端、アンプのような機材が甲高い音と重低音を同時に再生し、ルカの鼓膜を激しく打った。

「うぉわっ!!なっなんだってんだよ!!??イテテテテッ!!」

頭がクラクラし痛みが走り、思わず涙目になる。平行感覚を失い、転倒しかけた所でホセに支えられた。ちょうどそこでアンプも機能を停止した。そんなルカの様子を小馬鹿にした顔でサヴァは口を開いた。

「Dだけに聞こえる音、か?」

「そうですね。ご検討願えますか?」

「考えておく」

サヴァは足を組み、アンプをしげしげと観察しだした。その間にルカはホセに手を貸してもらいながら立ち上がる。ホセにわしわし頭を撫でられて強いくせ毛が尚更乱れた。

「ごめん」

「アンタな・・こういう事は事前に言ってくれよ。こんなサプライズ、嬉しくも何ともねーって。頭がまだキンキンするっての」

「悪い」

「サプライズプレゼントはもう少し洒落てるので頼むぜホセリート。具体的に言うとゲームとかエロ本とかな」

「それ洒落てるって言う?」

「じゃあシリコン製の無口なワイフってか?」

「それもどうかと」

「阿呆か。いつまでも馬鹿な事を抜かして油を売っているならさっさと散れ。ルカももう戻っていいぞ」

呆れたようなサヴァの命令に、二人は苦笑してから了解の返事を返した。





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