ガロファノの花弁

□Lust
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可畏がD機関の戦線に復帰してから、サロは彼のマンションから外出する回数が減った。気分屋な為に最悪ふらりと海外に出てしまう事すらあるサロが一カ所に長期間滞在するのは珍しい。
理由として上げられるのは、可畏が遠征に出る命令を出されていないため、非番の時に戻ってくるのだ。サロの体は大概は通常の人体と変わらないため、飲食などを必要最低限する必要がある。サロはそれを可畏に任せていた。

「カイってさぁ、誰かを愛した事ってある?」

朝食の最中、テーブルに肘を着いて大量にバターを塗られたトーストを口に運びながら、唐突にサロは尋ねる。屋内外問わずに下着を着ける習慣が無いのか、全裸に丈の長い紫のパーカーを羽織っているだけだった。しかし向かいの席に座る可畏は別段それを指摘しない。意見ができる身分ではないし、聞き入れない事は理解しているからだ。

比較的ラフな格好をしている可畏は優しく微笑んで、彼の口元のバターの油を拭う。触れただけで歓喜を感じるが表情には出さない。

「ありますよ。今は貴方を愛しています」

「それは知ってるし。オレに会うまでは誰を愛してた訳?」

サロは次いでベーコンを指で摘み、口に運ぶ。意地汚いが自分には無い自由さが可畏は見ていて楽しかった。

「家族は・・亡くしていますし、後輩の一人と・・昔交際していた女性でしょうか。後輩はついてきて可愛かったので、弟のように思っていました。女性の方はそこそこまで行きましたけど・・別れてしまいました。二人共、僕なりに愛していましたよ」

「どっちも、オレより可愛い訳じゃないでしょ?」

「はい」

「そうだろうね。でもその愛してるって違くない?オレのとソイツらの」

サロはトーストを食べ切り、バターまみれの指や唇をしきりに舐める。子供っぽい仕種の筈だが彼が行うと煽情的にさえ見えた。しかし彼はそういうつもりはないらしく、瞳は平静を表す緑色をしていた。

「よくわかんないけどさ、何て言うの?お前ってオレに対してセックスしたいとか思ってるんでしょ?でも女にはともかく、その後輩には思って無かったんだろうしぃ・・・オレに対する愛してるって別格だよねって事なんだけどぉ・・」

「嗚呼、そのような意味の愛しているかでしたら、貴方が初めてですよ。僕が進んで抱きたいと思った存在は貴方だけですから」

感染しているが故の本能でもあったが、可畏は心から彼に惹かれていた。それこそ、血を享ける前から。
海外遠征に行った先で出会った彼。下等な怪物らを従え、自由に破壊を楽しむその姿に惹かれた。気が付けば、彼に自ら体を捧げていた。血を享け、毒を飲まされたような苦しさに耐えた後、自分は彼に選ばれた。

「あっは、嬉しいなぁ、そう言われると」

サロは満足そうに橙色に瞳を光らせると、皿に残ったバターを人差し指の腹でなぞり始めた。ぬらぬらと油が光沢を放ち、黒いネイルに彩られた指を汚す。
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